分析化学
Print ISSN : 0525-1931
66 巻, 6 号
医療に貢献する分析化学
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
総合論文
  • 宮本 和英, 砂川 真弓, 齋藤 一樹
    原稿種別: 総合論文
    2017 年66 巻6 号 p. 393-402
    発行日: 2017/06/05
    公開日: 2017/07/12
    ジャーナル フリー
    生体内のユビキチン化反応は,不要なタンパク質の分解,DNA修復,シグナル伝達など多くの機能を担っている.そのユビキチン化反応を構成しているE2(ユビキチン結合酵素)は,白血病,乳がん,大腸がん等,様々ながん疾患と深く関与していることが知られている.将来的に,E2活性を高感度・定量的に捉えることができれば,E2をバイオマーカとして活用できるはずである.これまでに著者らは,簡便にE2活性を検出するために,人工的なユビキチンリガーゼ(ARF)を分子設計・作製し,そのARFを活用する新しい検出システムを独自に研究してきた.ARFは,ユビキチン化反応に含まれるE3(ユビキチンリガーゼ)の活性部位(α-ヘリックス領域)を50残基程度のペプチドに移植して作製されるキメラ分子である.E3の活性部位のみを持つARFは,元のE3の分子サイズに比べ極めて小さくなっている.この分子設計法をα-ヘリックス領域置換法と名付けた.ARFは特異的なE2結合能を有し,また,それ自身が基質となってユビキチン化される機能を有する.したがって,ARFを用いることで,基質の同定を必要とせずに,E2活性を簡便に検出できる.本稿では,このARFの分子設計法,及びその立体構造,機能的な特徴について概説する.また,実践例として,抗がん剤ボルテゾミブを作用させたヒト急性前骨髄性白血病(NB4)において,ARFの検出システムを活用するE2活性の検出法についても紹介する.
  • 小川 数馬, 増田 涼平, 柴 和弘
    原稿種別: 総合論文
    2017 年66 巻6 号 p. 403-411
    発行日: 2017/06/05
    公開日: 2017/07/12
    ジャーナル フリー
    シグマ-1受容体は中枢や末しょう神経系において情報伝達物質放出の調節に関係していることが判明しており,統合失調症,ストレス性疾患,認知症,筋萎縮性側索硬化症(ALS),がんなど多くの疾患との関係も報告されている.したがって,シグマ-1受容体を定量化できれば,種々の疾患の病態生理,進行度(重症度)の把握,早期診断が可能と成り得ると共に治療指針決定のための情報が得られる可能性がある.放射性プローブを投与し,そのプローブから放出される放射線を専用のカメラで画像化する,いわゆる,ポジトロン断層撮影(Positron Emission Tomography, PET)や単一光子放射断層撮影(Single Photon Emission Computed Tomography, SPECT)を用いた分子イメージング(核医学診断)により,非侵襲的に生体内の代謝や機能を定量可能であり,現在,PETやSPECTを用いる核医学診断的手法のみがシグマ-1受容体を定量可能である.そのため,シグマ-1受容体を特異的に画像化する分子プローブの開発の期待は大きい.本稿では,著者らが進めてきたシグマ-1受容体を標的とした放射性ハロゲン標識分子プローブの開発についての研究成果を紹介する.
  • 前川 正充, 山口 浩明, 眞野 成康
    原稿種別: 総合論文
    2017 年66 巻6 号 p. 413-419
    発行日: 2017/06/05
    公開日: 2017/07/12
    ジャーナル フリー
    医療現場の様々な場面で分析技術が活躍しており,特に近年の分析化学の著しい発展は,医療における化学分析の可能性をさらに拡げている.当院では,薬剤部に高度な分析技術を多数保有しており,それらを日常診療に活用しながら多くの臨床化学研究を展開している.すなわち,高精密かつ高精度な高速液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析法(LC/MS/MS)による定量法と,メタボロミクス技術を組み合わせて,先天代謝異常症の新たな化学診断法を開発するとともに,薬毒物中毒患者の中毒起因物質の特定にもLC/MS/MSを駆使している.さらに治療薬物モニタリングの高精密化にもLC/MS/MSはきわめて重要な役割を果たしており,特に今後の精密医療,個別化医療の推進にも大きく貢献することが期待されている.
  • 村山 周平, 加藤 大
    原稿種別: 総合論文
    2017 年66 巻6 号 p. 421-430
    発行日: 2017/06/05
    公開日: 2017/07/12
    ジャーナル フリー
    生命機能は様々な生理活性物質によって制御されていることから,細胞内・生体内において生理活性物質の機能を非侵襲的に時空間制御可能な手法を開発することで生命機能を自在に操作できるようになり,生命機能の解明や疾病原因の究明,さらには医療にも貢献できると考えられる.著者らは,ゲルの3次元網目構造を利用して,「多様な生理活性物質について」「任意のタイミングで」「外部信号によって標的とする位置だけで」「非侵襲的に」働かせることが可能な方法を開発し,PARCEL法と名づけ,医療応用への展開を目指している.本制御法において,内包分子はゲルの網目構造に物理的に捕捉されており,網目構造の大きさを変えることで,タンパク質から核酸,低分子に至る様々な物質を制御できる.また,内包分子はゲルの網目構造に保護されているため細胞内でも安定に存在することができ,必要時に外部信号で放出させ活性化することが可能である.ゲル材料となるモノマーの種類によってゲル分解信号を容易に変更することができ,これまでに光で分子の機能制御に成功している.本粒子は非常に柔らかく,タンパク質内包したゲルは迅速に腎排泄されるが,量子ドットを内包したゲルは体内動態が変化し,高い血中滞留性と腫瘍への蓄積が見られた.このような結果から,将来的には診断と治療を一体化する安全なセラノスティクスプローブへの応用が期待できる.
報文
  • 矢嶋 摂子, 岸 将人, 木村 恵一
    原稿種別: 報文
    2017 年66 巻6 号 p. 431-436
    発行日: 2017/06/05
    公開日: 2017/07/12
    ジャーナル フリー
    イオンセンサーの感応膜材料として,無機 – 有機複合材料であるポリシルセスキオキサン(PSQ)に着目した.メチル基とビニル基を4 : 1で備えたPSQを用いて,ヒドロキシ基を有するクラウンエーテル誘導体を化学結合した.これをイオン感応性電界効果型トランジスタのゲート部分に製膜して,イオンセンサーとしての性能と生体適合性について検討した.その結果,18 – クラウン – 6誘導体を化学結合したPSQは,カリウムイオンに対して感度よく応答を示し,従来の18 – クラウン – 6誘導体を含むイオン感応膜と同様のカリウムイオン選択性を示した.また,PSQ誘導体に対するフィブリノーゲンの吸着実験を行った結果,吸着が非常に抑制されており,生体適合性を示すことが示唆された.
  • 佐藤 しのぶ, 原口 和也, 早川 真奈, 冨永 和宏, 竹中 繁織
    原稿種別: 報文
    2017 年66 巻6 号 p. 437-443
    発行日: 2017/06/05
    公開日: 2017/07/12
    ジャーナル フリー
    テロメラーゼの触媒活性因子であるhuman telomerase reverse transcriptasehTERT)遺伝子のプロモータ領域のメチル化パターンががんの進行と深くかかわっていることが報告されている.したがってこのプロモータ領域のメチル化パターンが検出できれば,がんの早期発見の手法として発展できると期待される.著者らは,hTERT遺伝子のプロモータ領域中の五つのCpGサイトを含む24塩基をターゲットとし,10種類のプローブDNAを有するマルチ電極チップを作製した.このチップを用いた電気化学的ハイブリダイゼーションアッセイ(Electrochemical hybridization assay, EHA)によってhTERT遺伝子のメチル化パターンによる口腔がん診断を試みた.ここでは,病院での簡易診断を目指して口腔がん,白板症,健常者から得られた口腔ぬぐい液を用いて,ゲノムを採取し,亜硫酸処理したのち,メチル化特異的ポリメラーゼ連鎖反応(Methylation-specific polymerase chain reaction, MSP)を行った.得られたMSP産物をEHAにより評価したところ,サンプルのメチル化頻度とがんの進行度に相関が示された.白板症,健常者を含むすべてのサンプルからメチル化頻度の高いDNAプローブに対する電気シグナルのReceiver Operating Characteristic(ROC)曲線を用いて口腔がんの正診断率を算出したところ,91% であった.
技術論文
  • 若松 宏武, 寺崎 浩司, 島津 光伸
    原稿種別: 技術論文
    2017 年66 巻6 号 p. 445-451
    発行日: 2017/06/05
    公開日: 2017/07/12
    ジャーナル フリー
    ゲフィチニブは上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子を標的とした非小細胞肺がんの治療薬であり,EGFR遺伝子に活性化変異を有する患者には奏効を示し,本治療薬の対象となるが,治療後1年位でEGFR遺伝子に薬剤耐性T790M変異が出現し,治療効果が消失することが知られている.この変異を患者から早期に発見することは,治療薬の変更や副作用を回避する上で重要な情報となる.耐性変異の早期発見には低侵襲材料によるモニタリング検査が望ましいが,血液などには正常細胞が多数混在するため,変異型細胞の混在率が低く通常の検出法では検出困難な場合が多い.今回,著者らは光応答性プローブ(PREP: Photo-Reactive Probe)を利用した高感度な変異検出法(光クランプ法)を開発し,T790M変異について高感度に検出可能であることを確認した.本法は,ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)前のサンプルDNAに直接処理するだけであり,様々な検出アプリケーションに応用が可能である.また,複数の変異点に対して同時に処理することも可能であり,微量な遺伝子変異を検出する際の非常に有効な手段であることを示すことができた.
  • 森 絵美, 細谷 弓子, 吉崎 歩, 馬渡 和真, 北森 武彦
    原稿種別: 技術論文
    2017 年66 巻6 号 p. 453-457
    発行日: 2017/06/05
    公開日: 2017/07/12
    ジャーナル フリー
    マイクロフルイディクス(微小流体工学)と熱レンズ顕微鏡を応用して酵素結合免疫測定(Enzyme-linked immunosorbent assay: ELISA)をシステム化した新しい機能デバイス(μ-ELISA)により,検体の採取から検出に至るまでのすべてのプロセスを微量検体μLオーダーで行うことが可能となった.しかしながら,臨床の現場における微量患者検体の取扱いについての課題として,検体採取量が少なくなると,微量保存容器の界面体積比の影響を考慮した保存方法を検討する必要がある.そこで,本研究では,測定対象をCRPとして,微量患者検体の保存安定性について検討した.その結果,微量保存の際は容器内部の材質や時間を考慮する必要があり,あらかじめ評価した上で,使用すべきであると結論した.
アナリティカルレポート
  • 小谷 明, 小浜 元敬, 白鳥 泰正, 楠 文代, 袴田 秀樹
    原稿種別: アナリティカルレポート
    2017 年66 巻6 号 p. 459-463
    発行日: 2017/06/05
    公開日: 2017/07/12
    ジャーナル フリー
    A fecal collection kit, which consisted of a collection tube containing 10 mL of 3 % phenol in water, collection paper, a spoon to scrape the feces, an instruction, glove, and a plastic bag with a zipper, has been developed to collect human feces for determining fecal short-chain fatty acids (SCFAs). Using the fecal collection kit, human healthy volunteers (n = 15) and patients with ulcerative colitis (n = 10) can easily collect their feces specimen and mail them to our laboratory by themselves. The fecal SCFAs in mailed specimens are determined by high-performance liquid chromatography with electrochemical detection (HPLC-ECD) based on the voltammetric reduction of vitamin K3. Fecal SCFAs are stably remained in the present collection tube for 7 days at 4 °C. Fecal lactic acid content in patients with ulcerative colitis is increased, whereas fecal acetic acid content is decreased in comparison to that in healthy volunteers. The ratio of lactic acid to acetic and propionic acids in feces from patients with ulcerative colitis is significantly increased in comparison to that from healthy volunteers (p < 0.1). In conclusion, the present fecal collection kit would be useful to collect feces specimens from humans living in the country to determine fecal SCFAs by HPLC-ECD.
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