2018 年 67 巻 12 号 p. 749-760
心筋細胞の細胞膜中に多く存在するカリウムイオンチャネルhERGの機能阻害は,QT延長症や不整脈など命にかかわるような心疾患の発症と関連している.hERGチャネルの阻害は先天的な遺伝子異常だけではなく,薬剤による副作用によっても引き起こされる.hERGチャネルの遺伝子型によって薬剤化合物との反応性は異なり,各々の患者に対して安全な薬を処方するためにはその患者のhERG遺伝子型に応じて副作用を引き起こさない薬剤の選択(個別化医療)が必要とされる.著者らは,各遺伝子型に応じhERGチャネルを阻害する薬剤化合物の網羅的・包括的な同定法の開発を目指し,人工細胞膜を用いたイオンチャネルの解析系の開発に努めてきた.従来,人工細胞膜系においては,その膜の脆(ぜい)弱性や膜へのイオンチャネルの包埋率の低さなどが大きな課題となっていた.著者らはこれらの諸問題に対し,様々なアプローチをとることで解決を図ってきた.本論文では,著者らが開発している人工細胞膜を用いたイオンチャネルの解析系と上述の諸問題に対するアプローチについて最新の研究成果を中心に紹介したい.