2020 年 69 巻 4.5 号 p. 197-208
本稿では,波長200 nm以下の遠紫外域を含むスペクトル測定を可能にする減衰全反射型─遠紫外分光装置(ATR-FUV装置)を利用して著者が近年進めてきた,酸化チタンに代表される無機半導体材料や,新しい電解質として期待されるイオン液体の,電子励起吸収分光研究についてまとめた.ATR法を採用することで,光路長を数十ナノメートルにまで短縮し,遠紫外域での物質の強い吸収を簡便かつ系統的に測定することができる.測定される吸収スペクトルは物質内の電子励起あるいは物質間の電子移動にともなう吸収であり,それは材料の機能にも密接にかかわっている.外部光源から試料に光を照射する新しい機構の導入や,電気化学環境下で測定可能なシステムの開発を進めることで,材料が機能を発現している環境下での測定を実現した.測定対象に合わせて試料環境を柔軟に制御できることが本装置の大きな強みの一つであり,今後のさらなる発展が期待される.