2021 年 70 巻 10.11 号 p. 593-599
結晶性配位高分子の金属イオン交換反応は,金属イオン分離や検出だけでなく,新規物質合成経路として研究されている.一般的なイオン交換材料とは異なるイオン選択性を示す系もあり,結晶性配位高分子は興味深いイオン交換反応場であるといえる.そのメカニズムの詳細はいまだ理解されていないが,著者は,配位高分子の結晶構造変化が一つの重要な要因であると考えている.本稿では,ランタノイドイオン(Ln3+)とリン酸系配位子が形成する二つの配位高分子での金属イオン交換を紹介する.一つは,Ce3+とbis(nitrophenyl)phosphate(L1)とが形成する結晶性配位高分子(CeL13)でのLn3+交換(Ln3+≠Ce3+)で,重希土類であるYb3+とLu3+でのみイオン交換反応が進行するという極めて珍しい選択性を示した.二つ目はLa3+とアルカリ金属イオン(M+)と1,4-phenylenebis(methylidyne)tetrakis(phosphonic acid)(L2)とが形成する配位高分子(MLaL23)でのM+交換で,K+に対する選択性が高いという結果であった.どちらの系も結晶構造変化を伴う反応であり,配位高分子中に2種類の金属イオンが混在することによって配位高分子骨格の構造安定性が変化し,イオン交換選択性に影響するのであろうと推測している.