分析化学
Print ISSN : 0525-1931
総合論文
大気圧プラズマを用いる微少量試料の高感度無機・有機分析システムの開発
岩井 貴弘
著者情報
ジャーナル フリー

2022 年 71 巻 7.8 号 p. 377-390

詳細
抄録

近年の再生医療における病理研究,ナノテクノロジー,法科学研究などの進展に伴って,幅広い分野において微少量の試料を高感度に分析する技術の開発が求められている.そこで著者は,室温から数千度までの様々な温度の大気圧プラズマを駆使して,微少量試料のための新しい無機・有機分析システムを開発し,様々な分野への応用研究を行ってきた.まず,分析対象の表面に付着している微少量物質の高感度分析を実現するために,手で触れられるほど低温かつ照射対象物に放電損傷を与えない大気圧プラズマを表面付着物の脱離・イオン化に応用した,大気圧プラズマソフトアブレーション法(Atmospheric Plasma Soft Ablation, APSA)を世界で初めて提唱した.この手法の開発により,生体等の熱に弱い分析対象の表面に付着している微少量物質の無機・有機分析が可能となった.さらに,一つの微粒子や一つの細胞に含まれる主成分からアトグラム(ag: 10−18g)オーダーの極微量元素までの分析を目標として,ドロプレット試料導入法,高速信号取得・処理法の開発に携わり,誘導結合プラズマ質量分析装置(Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometer, ICP-MS)や高出力パルスマイクロプラズマ励起源と組み合わせることで一粒子・一細胞分析システムの構築を行った.その結果,単一細胞中の微量元素分析に必要なagオーダーの検出下限値を達成することに成功した.本稿では著者がこれまでに開発してきた微少量試料分析システムとその応用研究について報告する.

著者関連情報
© 2022 The Japan Society for Analytical Chemistry
次の記事
feedback
Top