2023 年 72 巻 12 号 p. 503-510
簡便にどこでも手に入る市販試薬は,その分子構造に対する相互作用を適切に選定することで,ケモセンサのビルディングブロックとして機能する.ケモセンサの交差応答性を活かしたアレイは,同時に多成分の化学情報を分析するための有力なツールとなり得るが,パターン認識を達成するためには,豊富な化学情報を含む指紋パターンを得る必要がある.本論文では,市販試薬を適切に組み合わせて,分子間相互作用に基づきケモセンサの調製を行う「ゼロ有機合成」のアプローチとそれを活用したパターン認識駆動型の化学センシングについて述べる.本アプローチで設計・調製した自己集合型ケモセンサは,電気的に中性な糖類,オキシアニオン類,金属カチオン種に対するパターン認識能を示し,当該手法の有用性を示している.従来の共有結合に基づく設計から,分子間相互作用による自己集合型ケモセンサへの転換は,高度な実験スキルや専門知識を有さずとも,誰もが簡便に分析ができるようになるためのきっかけになると確信している.