分析化学
Print ISSN : 0525-1931
16鉄鋼分析
川村 和郎
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1974 年 23 巻 13 号 p. 156R-163R

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抄録

本進歩総説は1972年から1973年にわたる主要な文献に基づき鉄鋼分析の分野における進歩とその傾向についてまとめたものである.この期間内に発表された報告を通覧して気づくことは, その数が従前の同期間に比べてむしろ減少していること, および「鉄鋼中の○○ (元素名) の分析法の研究」といった形の報告が少なくなったことである.これは鉄鋼の研究の発展した変化を的確に示すものであり, 鋼中の元素含有率を知るだけに飽き足らず鋼中での物理的, 化学的変化を知るための分析, いわゆる状態分析に関する報告が多くなっていることにその一端をよくうかがうことができる.
このような鉄鋼分析研究の変化の模様をさらに分類してみると, 一般に湿式化学分析関係が少なくなっているなかでも特に重量法・容量法の研究が目だって少ない.一方, この分野での吸光光度分析法の文献は依然として非常に多いが, 原子吸光分析法の研究も盛んになり, 今やこの二つが化学分析の主力となっているといっても過言ではない.これは原子吸光分析法が概して鉄をはじめその他の共存元素からの分離を必要とせず特殊な反応試薬も要しないうえに検出感度が高く微量分析にも適しているなどの理由によるものと考えられる.湿式化学分析関係で自動化の文献が多く見られるようになり, また環境問題に関連して有害試薬を使用しない分析法の文献が見られるのも今期の特徴である.
ガス分析に関しては水素分析の報告が圧倒的に多い.鉄鋼材料の高品質化の研究にともなって精練段階での水素の迅速分析が酸素, 窒素の分析とともに重要になりつつあることを意味するものとみてよいであろう.
状態分析についてみると化学的手法による鋼中析出物, 非金属介在物の分離分析に関するものが多いが, 不安定な微粒子をマトリックスより抽出することのむずかしさや一義的な結論を出すことの問題点が順次明らかになるにつれて, X線マイクロアナライザー・イオンマイクロアナライザーによる分析やX線回折・電子線回折・赤外吸収などの物理的手法が併用されるようになって研究は多面的になってきた.鉄鋼分析のなかでもこの析出分散相の分析は比較的新しい分野だけにまだまだ未知の部分が多く, 今後ますます新しい報告が期待されるところである.
機器分析に関しては上記のX線マイクロアナライザーなどの分析機器による以外に, 発光分光分析とけい光X線分析が現在の鉄鋼分析の主力であるだけに関係する報文もたいへん多い.発光分光分析では新しい励起放電を適用した場合の研究も数多く見られる.一方けい光X線分析では湿式化学分析では分析困難な希土類元素の分別分析に適用した例をはじめとして, 高合金鋼や鉄鉱石・スラグなどの酸化物試料まで広範囲な適用を試みた例が非常に多くなったことはこの期間の一つの特色といえるであろう.
その他, 放射化分析, 質量分析などの部門でも実用上の研究例が最近はかなり見られるようになってきた.

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© The Japan Society for Analytical Chemistry
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