抄録
フェノール類のNMRスペクトルを測定する際に,水を添加すると,水酸基プロトンと水プロトンの交換が起こるため両シグナルは重なった幅広いバンドを与えるが,微量の金属塩を添加すると水酸基プロトンと水プロトンはそれぞれ分離したシグナルを示し,更に低磁場側に移動した.この場合,水酸基プロトン及び水プロトンの化学シフトは水添加量,フェノールの種類によって著しく異なり,pKa値の小さいフェノール類ほど顕著な効果を示した.又,水酸基プロトンと水プロトンの化学シフトの差は水添加量が多くなるにつれて大きくなり,水酸基プロトンと水プロトンが交換することにより,水酸基プロトンは高磁場側に,水プロトンは低磁場側に移動し,重なった幅広いシグナルになるという考え方と相反する結果になった。このような現象は水添加によって,水酸基プロトンが解離しフェノキシドイオンを生成するが,このフェノキシドイオンのプロトン受容性が大きく,水酸基プロトンと強力な水素結合を形成するためと推察した.