日本物理学会誌
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重イオンビームによる品種改良法の開発から遺伝子機能解明へ(交流)
阿部 知子平野 智也風間 裕介
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2012 年 67 巻 10 号 p. 680-684

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抄録

加速器で作る重イオンビームを植物や微生物に直接照射して, DNA変異を誘発し,これを品種改良法に役立てる研究は,日本独自の技術として発展してきた.花卉植物を中心に理研ブランドとして21の新品種を市販している.私たちは植物の致死効果や変異効果に対する重イオンビームの影響を精査し,それぞれについて最適な線エネルギー付与(LET: Linear Energy Transfer)があることを発見した.ここでLETとは重イオンビームの細胞中でのイオン化・励起密度に対応する量で単位長さ当たりのエネルギー損失(keV/μm)で表される.また,そのDNA変異を調査したところ,変異誘発に最適なLETでは100bp(塩基対, base pair)以下の小さな欠失変異がほとんどであるが,致死効果が高いLETでは1kbpより大きな欠失変異が半分を占めた.一方,分子生物学の技術革新により,全ゲノム解析が身近となった.今後ゲノム情報と変異体を用いた遺伝子機能解析という新領域「Mutagenomics」を推進していく.

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© 2012 一般社団法人 日本物理学会
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