日本物理学会誌
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絶縁体中の磁気スキルミオン相が示す電気磁気ダイナミクス (解説)
望月 維人関 真一郎
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2014 年 69 巻 3 号 p. 132-139

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抄録

1960年代に素粒子物理学の分野で提唱された「スキルミオン」が,最近になってある種の磁性体中で実現していることが発見され注目を集めている.この磁性体中の磁気スキルミオンは,磁化の空間配置が立体角4πを埋め尽くすようにあらゆる方向を向いた渦状かつ粒子的なナノスケールのスピンテクスチャである.2009年にB20化合物と呼ばれる金属磁性体中で発見されたスキルミオンは,磁気テクスチャが作る有効磁場由来の伝導電子のホール効果(トポロジカルホール効果)や,スピン移行トルク機構を通じた電流による駆動現象など,その特異な「輸送現象」や磁気記憶デバイスなどへの「技術応用の可能性」に注目が集まった.それに対し,2012年に絶縁磁性体Cu_2OSeO_3でもスキルミオン相が発見され,さらにこの物質中で非共線的なスキルミオン磁気構造が強誘電分極を誘起していることが分かった.このような磁化と分極が結合したマルチフェロイック系では,興味深い電場と磁場の交差相関応答が期待される.最近の理論研究で,マイクロ波の振動磁場成分と振動電場成分の両方に活性なエレクトロマグノンと呼ばれる磁化と分極の固有振動モードの存在が明らかにされた.さらに,これらの複合自由度のモードが持つ磁場励起チャネルと電場励起チャネルの干渉効果を通じて,このマルチフェロイックスキルミオン相がこれまでに報告例がないほど巨大なマイクロ波の整流効果を示すことが明らかになった.具体的には,スキルミオン相によるマイクロ波の吸収率がマイクロ波の照射方向によって最大20%も変化することが予言されている.この研究により,磁気スキルミオンが「記憶・論理デバイス」の素材としてのみならず,「マイクロ波デバイス」の素材としても有望であることが示され,スキルミオンをはじめとするトポロジカル磁気テクスチャの新しい研究の方向性が開拓された.

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© 2014 一般社団法人 日本物理学会
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