日本物理学会誌
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数値シミュレーションは∇・B=0を守れるか?(実験技術)
三好 隆博
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2014 年 69 巻 7 号 p. 470-476

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抄録

拘束条件を内在する時間発展方程式に対する数値シミュレーション技法について,磁気流体力学(MHD)における磁場の誘導方程式を具体例にひとつの直観的な分類を試みよう.MHDは核融合プラズマや宇宙・天体プラズマなどのマクロな挙動を非常によく表す理論モデルである.MHDでは,流体(プラズマ)の圧力に加え,磁気的な力であるローレンツ力によって流体が変形する.一方で磁場は流体の運動に応じて変動する.磁場と流体の相互作用によって,通常の流体と類似の音波(速い磁気音波,遅い磁気音波)のみならず,アルヴェン波と称される磁力線を伝わる横波が存在可能となる.特に宇宙空間や天体周辺環境においては,プラズマはしばしば局所的に波よりも大きい速度を獲得し得るため,これらの波に関わる多彩な衝撃波構造が普遍的に観測・予測される.衝撃波などの不連続解を非物理的な振動なく正しく数値的に解くには,数値解法として支配方程式の数学的特性を適切に考慮する必要がある.双曲型方程式に対する特性曲線理論に基づく数値解法,いわゆる衝撃波捕獲法は,長年にわたり数値流体力学分野における重要な研究開発課題であった.MHDに対しても,衝撃波捕獲法に関する知見が近年急速に深まりつつあり,基礎研究,応用研究が活発に進められている.衝撃波捕獲法では,必要なところにのみ,必要十分な数値的粘性が自動的に付与される.この数値的粘性によって不連続解を正確に解くことができる一方で,特にMHDでは,衝撃波捕獲法の多次元化において重大な問題が生じることになる.磁場に関するガウスの法則,∇・B=0,の破綻である.数値的に生ずる磁気単極子∇・Bの存在は,最終的に数値シミュレーションの破綻を導く.したがって,磁場Bの時間発展方程式たる誘導方程式を解き進みつつ,同時に磁場の拘束条件∇・B=0を満足する.これがここで課せられた問題設定である.本稿では,MHD数値シミュレーションにおける数値的磁気単極子の影響とその処方箋を示す.ここでは特に,数値的磁気単極子の影響を取り除くための数値シミュレーション技法を3つのアプローチに分け,具体的に紹介する.3つのアプローチとは,1.連立方程式を付け加えて解く,2.誘導方程式を特別に離散化する,3.磁気単極子の時間発展を追う,である.第1のアプローチでは,時間発展の数値シミュレーションに加え,ガウスの法則に関する連立1次方程式を解いて磁場を補正する.第2のアプローチでは,離散的なガウスの法則を満足するよう,誘導方程式に対してのみ特別な離散化を行う.第3のアプローチでは,数値的磁気単極子の存在を潔く認め,数値的磁気単極子の時間発展方程式を考える.それぞれに一長一短があり,未だ決定版はなく,研究開発途上の技術と言える.本稿で示す拘束条件を守るための3つのアプローチが,拘束条件を内在する時間発展方程式の多くに対して,数値シミュレーションを実現するための有効な指針になれば幸いである.

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© 2014 一般社団法人 日本物理学会
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