日本物理学会誌
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解説
行列模型による超対称ゲージ場の量子論の解明と進展
糸山 浩司
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71 巻 (2016) 9 号 p. 607-616

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抄録

行列模型と言うと,多体問題に造詣の深い読者はM. L. Mehtaによる有名な本“Random Matrices”で取り扱われている原子核のレベル間隔の問題を,あるいは中年以上の弦理論研究者は90年代初頭に集中的に研究されたランダム面に基づく2次元重力やそれに対応する弦理論を思い起こされるかもしれない.本稿で解説するのは,超対称性と呼ばれるボソンとフェルミオンの入れ替えに関する対称性を持つ4次元場の量子論の低エネルギー極限の厳密決定の問題において,行列模型が果たす意外な役割と現在までにもたらした進展についてである.

K. Wilson以降の現代的な場の量子論の取り扱いにおいては,あるスケールにおける有効理論は,場のそれより高い振動数部分をもとの作用に関して積分することによって得られる.こうして得られた作用を有効作用(effective action)という.超対称性が極小のもの(N=1と名付ける)から拡大された場合(N≥2),あるいはそれが自発的に破れた場合,有効作用はひとつの正則汎関数で特徴づけられる.その低エネルギー極限をFと名付けよう.

今日まで20年以上にわたりFに関する息の長い発展が続いている.3期に分けてまとめてみよう.拡大された超対称性を持つゲージ理論の真空では,フォトンとその相棒のみが質量を持たずにとどまる.一方真空は,値の決まらないスカラー場の期待値で指定される縮退した真空であることがSeiberg-Wittenの仕事により明らかになり,第1期の発展は始まった.正則関数Fは,リーマン面=代数曲線と,その上に住み無限遠点で極を持つ微分から,陰関数として厳密決定され,今日ではSeiberg-Witten系と呼ばれている.その後ほどなく極の次数を上げる拡大系が提案され,行列模型の自由エネルギーの表式との類似性が明らかになり,後年の発展につながった.第2期は,グルーオンの相棒のグルイーノに関するカイラル対称性が自発的に破れたN=1真空上の有効作用,そのオーダーパラメターを引数とする新たな正則関数Fに関する発展である.この場合の適切なリーマン面は,行列模型の固有値がいくつもの区間に分かれて分布している場合に合致した.正則関数Fの厳密決定問題においては,このオーダーパラメターを超ポテンシャルにあるパラメターと合わせ,拡大系を定義する.この立場からの進展が一挙に進み,最終的には行列模型と同型な場の量子論のSchwinger-Dyson方程式が得られ,謎解きが完了した.N=2真空に戻って,第3期はインスタントン和としてのSeiberg-Witten系の微視的理解に始まった.一方,摂動論のlog補正を受けない場合を親玉とする別のタイプの代数曲線に対しても同型なリーマン面を与える行列模型が定まった.行列模型の分配関数の共形ブロックの積分表示としての顔とインスタントン和としての顔を活用し,いわゆるAlday-Gaiotto-立川関係式の直接生成が実行されている.

これらの実例により,正則関数Fは適切に定義された行列模型(あるいはその拡張ensemble)の自由エネルギーFと同一視できることが判明してきた.F=F

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