日本物理学会誌
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解 説
重力波の観測とデータ解析
田越 秀行伊藤 洋介端山 和大
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2017 年 72 巻 3 号 p. 158-166

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抄録

LIGOにより重力波が初観測された.この物理学の歴史に残る発見は,レーザー干渉計による究極の微小変位計測技術,ポストニュートニアン近似や数値相対論的シミュレーションという理論的研究の発展,そして,雑音に埋もれた微弱な信号を抽出するデータ解析技術,のどれもが重要な役割を果たした成果である.本稿はこのうち,データ解析の解説を行う.

重力波の発生源は,信号の継続時間や詳細な理論波形が重力波信号の抽出に利用できるかできないかなどによって分類できる.信号継続時間が短く,詳細な波形が分かっているものには,ブラックホールや中性子星からなるコンパクト星連星の合体がある.この重力波は詳細に理論波形が計算されている.信号探索手法は広くMatched Filterと呼ばれ,理論波形とデータのある種の相関をとりデータ中に欲しい信号を探すものである.LIGOの最初の2つの重力波信号は,この解析により存在の有意さが5σ以上であることが確認され重力波信号であることが確定した.

波形が分かっていて信号継続時間が長いものには,パルサー(回転中性子星)からの重力波がある.パルサーは最高で1 kHzほどという高速で自転する中性子星である.半径10 km程度のパルサーの表面に1 mm程度の山があると,自転にともなって重力波を放出する.このような重力波は,KAGRAなどの第2世代重力波検出器が,信号を数年間積分することによって検出できるかもしれない.パルサーからの重力波により,中性子星の外殻の固さや,状態方程式についてある程度の制限が得られると期待される.

信号継続時間が短いが,詳細な波形を利用できないものには重力崩壊型超新星爆発がある.この重力波波形を正確に予言することは現在も将来も困難であると考えられるため,信号の探索は波形の詳細は用いず,周波数帯域や継続時間についての大雑把な情報のみを使い,時間周波数面上のパワーの平均からの増加を探索するという手法が用いられている.一般的にこのような探索は重力波解析ではバースト解析と呼ばれている.この方法は,上記のMatched Filterに比べれば検出効率は落ちるが,詳細な

波形に依存せず信号探索が可能で,また

計算時間もあまりかからない.このような利点はLIGOの初観測でも生かされた.GW150914はブラックホール連星合体重力波であったが,最初にこの信号を発見したのはバースト解析のオンラインパイプラインであった.

以上の他に,確率論的背景重力波という,インフレーションなどの初期宇宙起源の重力波や,天体起源の重力波が多数重なり合って分離できなくなった重力波などがあるが,本稿では紙幅の関係から説明は割愛する.

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