日本物理学会誌
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機械学習とロボットは,研究者を「自由」にする
一杉 太郎
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2022 年 77 巻 9 号 p. 592-601

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抄録

機械学習とロボットが「自動的・自律的」に実験的研究を進める時代がやってきた.研究現場にそれら技術の導入を進めれば進めるほど,「人間の研究者は何に注力すべきか」について,深く考えさせられる.そのような時代における「研究者の役割」が今,問われている.

大きな問題意識として,若手研究者の「極めて貴重な時間」をいかに充実させるかという点が挙げられる.政府の人口統計によると,日本は少子化が進み2020年の出生数は約80万人.この数字は,147年前[明治6年(1873年)]の出生数とほぼ等しい.複雑さが大きく増している現代社会を少人数で支えるうえ,さらに発展させる方策を考えねばならない.

そのような背景にもかかわらず,私の研究室の学生らは,私が学生の時と同じ手順で今も実験している.教育や研究は本当にこれで良いのだろうか? 自らを超える人材の育成が我々のミッションだと認識している.我々のコピーを作るのではない.その問いに答えるためにも若手研究者の研究環境のあり方を大いに議論すべきである.

研究者は「知的好奇心を原動力として,ワクワクしながら創造的な研究に取り組む」.これはいつの時代にも不変である.それに加え,科学と社会への貢献も果たしたい.そして,「研究者は輝いている」と社会から認知され,若者が研究者を志す社会となってほしい.そのためには,研究に対する考え方,研究自体の進め方に変革が必要である.

現代社会は機械学習とロボット無しには成り立たない.研究の現場にもそれらが入っていくのは当然の流れである.その際,それら技術が,「単に時間短縮や効率化に貢献する」とだけ捉えていたら,認識を変えなければならない.本質は,「研究者が新しい発想・考え方を得る」という点にある.これら技術をそのように使いこなせる人材や組織が,今後,研究界で伸びていくだろう.

世界の現状を概観すると,実験の時短・効率化という観点では,原理実証は終わったと言って良い.現在は,その技術を様々な物理・化学実験に広げる段階にある.そして,「新たな発想の獲得」について,試みが始まったばかりである.実験の自動化・自律化技術を活用すると,これまでとは「質が異なる新たな勘・コツ・経験」を掴む可能性が高い.特に,より俯瞰的な視野から見る,新たな物理観・化学観・科学観を研究者は獲得すると考えている.それこそが,今起きている変革の最大の狙いである.

もちろん,人間の五感を総動員し,手先を使って実験的研究を進めることは極めて重要であり,今後も強力に推し進めるべきである.単純作業を繰り返して勘を掴み,合成法や計測法について新たな発想を行い,新学理を構築することは人間しか成し遂げられない.そのため,機械学習とロボット,そして人間が協調して研究を進める姿が将来像として見える.その時,研究者はより自由な発想ができ,より創造性が高まると期待できる.

そのような時代において,科学者のリテラシーとは,機械学習とロボットの可能性と限界を知り,これら技術を投入すると最大の成果が得られる課題を見抜く目だと考えている.それを身につけることにより,「研究者は何に注力すれば良いのか」が見えてくる.

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