2002 年 57 巻 12 号 p. 890-899
高度に電離の進んだ重元素の多価イオンを生成し閉じ込める装置として開発された電子ビームイオントラップ(EBIT)の進展により,多価イオン研究は新しい局面を迎えている.まず,冷却して閉じ込められた多価イオンを対象として,原子系の相対論的および量子電磁力学的効果,ならびに核構造が関与する現象を分光学的により精密に研究することが可能となった.また,EBITから引き出された低速多価イオンを固体表面に衝突させ,多価イオンが保持する莫大な内部エネルギーによる二次粒子放出,および絶縁体や半導体表面に生成されるナノスケールでの構造や物性の変化に関する基礎研究も行われるようになった.本稿ではこれらの最近の研究について概説する.