日本物理学会誌
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フラーレン結晶の転位と強度
橘 勝小島 謙一
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2004 年 59 巻 7 号 p. 444-451

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抄録

C60やC70のようなフラーレン分子性結晶はその基本格子ベクトルが約1nmと大きく,それゆえ塑性変形挙動は従来から研究されている金属結晶,半導体結晶,イオン結晶などと大きく異なるものと考えられてきた.しかし,本稿で述べるように塑性変形の基本的挙動に関しては従来の結晶と大きな違いはない.すなわち,fcc構造のC60結晶は,転位のバーガース・ベクトルが1.001nmと大きいとはいえ,1/2<110>系の転位が増殖,運動して塑性変形を担っている点においては,Cuのような典型的なfcc金属結晶と変わらない.しかし,フラーレン結晶の大きな特徴は分子性結晶であるがゆえに分子の性質が顕著に現れることである.例えば,光照射によるC60分子のダイマー化によってビッカース硬さが硬化したり,相転移温度近傍で分子の配向の差によってビッカース硬さに"とび"が観測されたりする.特に前者はC60分子の光に対して敏感な性質,光重合化するという性質が結晶においても現れる一例である.この解説ではフラーレン結晶の転位と強度の挙動を中心に,この領域の研究について俯瞰する.

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