日本の大学における自殺者数は,2019年まで過去8年間は減少傾向にあったが,2020年のコロナ禍において増加に転じた。大学生の自殺については,全国的な調査も実施されているが,大学間で取り組みに差があり,その実態には未解明な部分が残されていると考えられた。本研究では信州大学で発生した自殺事例の分析を行い,他大学等の報告(富山大学・筑波大学・全国調査)と比較することで,大学生の自殺のリスク要因とこれまでの予防対策の限界,今後の課題について考察した。当大学でのリスク要因としては,「学期や年度の切り替わり時期」「学業的つまずき」「一人暮らし」「性別」「文系学部・理系学部の別」等が考えられたが,他大学との比較では,その特徴に相違もみられた。自殺予防対策では,ハイリスク学生に対するアプローチが選択肢のひとつだが,その実施方法や効果の有無には検討すべき課題も多い。今後,大学間で情報を共有し,その特徴を検討していくことが,大学生の自殺対策につながるものと考えられた。