Print ISSN : 0016-450X
吉田肉腫の移植に必要な細胞の数に関する研究
1箇の細胞による腫瘍の移植
石橋 嘉久藏
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1950 年 41 巻 1 号 p. 1-14_2

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抄録

吉田肉腫の腫瘍腹水を正常ダイコクネズミ腹膜腔液添加生理的食鹽水で稀釋し,その小滴中に含まれる細胞數を顯鏡下に嚴密に數え,これをミクロマニプラトールにより,ピペット中に吸い取り,正常ダイコクネズミの腹膜腔内に注入する方法により,細胞數11箇,2箇及び1箇の場合にも移植に成功した。
一方,同樣に腫瘍腹水を稀釋し,これを遠心した上清の小滴中に,細胞の全然ないことを一つ一つ確認したもののみを吸い取つて,正常ダイコクネズミの腹膜腔内に注入した試驗は,總て移植陰性と認むべき成績に終つた。
この際,無細胞の場合の稀釋は4倍∼17倍であるのに對し,細胞1箇の場合の如きは,腫瘍腹水が約500萬倍程に稀釋されている。即ち稀釋の程度が低くとも無細胞の場合は植わらないが,極めて高度の稀釋をした場合でもその中に細胞が含まれていれば,それで植わると言う結果になつている。
又少數細胞移植で目立つことは,腫瘍の成長に要する時間の延長することである。腫瘍腹水の0.01∼0.02cc,細胞數にして100萬∼1,000萬箇を注入している日常の移植では,腫瘍細胞が腹膜腔内で純培養状態に増殖する迄に3∼4日を要するのであるが,細胞數が3萬箇になると,これが7日に延び,8,000箇或は2,000箇になると十數日に延びる。しかし,20箇或は1箇になつても,最早や大差はなく,大體2週間前後となつている。

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