Print ISSN : 0016-450X
吉田肉腫に対する発育抑制実驗
飛岡 元彦上岡 和夫
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1950 年 41 巻 1 号 p. 37-46

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抄録

1) 本腫瘍の培養には鷄血漿,鷄胎兒壓搾液の他大黒鼠腹水を添加した培養基がその發育に最も好適であり,更に鷄胎心臟組織の並置培養も好適である。
2) 本腫瘍の培養に於て發育促進物質として腹水の他には正常大黒鼠の脾臟抽出液であり、腫瘍移植大黒鼠の脾臟抽出液はそれより遙かに發育開始の時期が遲れ,且つ比較成長價が低い。之は本腫瘍移植により動物が免疫され,同動物に本腫瘍發育の抑制因子が獲得され,その脾臟にも之が含有された結果であると思われる。大腦,睾丸,肝臟等其他の諸種臟器抽出液添加培地では腫瘍の發育を見ない。
3) 本腫瘍を皮下に移植し,一程度増殖後之を摘出し,腹腔内に再移植し陰性の結果を得たことから本腫瘍には免疫が形成されることを證明した。再移植後腹腔内での腫瘍細胞の生存日數は極めて短時日で概ね2∼3日で多くとも6日以内である。
4) 7例の腫瘍移植大黒鼠にtris-β-chloroethylamineを注射したが初回注射後腹水中の腫瘍細胞は2日以内に消滅した。Nitrogen Mustardでは本腫瘍細胞を崩壞消滅させることは出來るが副作用が大で個體も死に至らしめるが,生命の延長は可能で,その量は0.1mg/100g以内と考えられる。
5) 胎盤製劑(Thmenin)投與の10例中1例に腫瘍の陰性化を見,1例に60日間の長期に亘り生命を維持するのを見た。
6) Estrin製劑を睾丸内移植腫瘍動物に注射した7例中2例に陰性化を見た。
7) 腸チフス,パラチフス混合ワクチン,ベンゾール等では本腫瘍は影響を受けないが胎盤製劑,Estrin製劑では影響を受け,確實に腫瘍の陰性化を見る場合もあるが,常に一定した成績を得ることは出來ず,その率は少かつた。以上諸種の藥劑では腫瘍細胞に最も強い影響を及ぼすのはtris-β-chloroethylamineであり,毎常大部分の腫瘍細胞が強烈な潰滅状態に陷るが,副作用殊に腸粘膜の障害による下痢が強く,比較的早期に死に至り,一定の非常に少量を與えた時にのみ生命の延長を得られるが完全に回復したものはなかつた。
8) 皮下移植後腫瘍を摘出してから腹腔内に再移植し陰性化する場合,腫瘍細胞の核萎縮,崩壞,空胞變性等Giemsa染色所見は正常の未處置動物に移植した場合の中-末期に屡々見られる所見と同樣で細胞個々に關しては檢索した範圍内では免疫動物に特有の所見とは云い難い。
9) 皮下移植腫瘍摘出後,腹腔内に再移植する場合,再移植後1∼2日で顆粒球の反應が消失し,次に單核細胞が急激に相對的の増殖を示す。この際單核細胞の空胞變性,貧喰細胞の強い出現,時に腹腔内固定細胞の剥離等が目立つ事がある。
10) 腫瘍細胞はヤーヌス緑,中性赤複染色により中性赤ロゼツテを見,之を取圍む短桿状ヤーヌス緑可染體を見る。尚ヤーヌス緑可染體だけで中性赤ロゼツテを見ない幼若型と考えられる細胞を見る。
11) ヤーヌス緑,中性赤複染色による可染體及び顆粒は移植後2∼3日内に最も顯出がよく,中-末期ではその現われる數が減少する傾向がある。
12) ヤーヌス緑,中性赤超生體複染色による可染體及び顆粒の顯出しない場合でも,之を新しい動物に移植する時は急激に顯出する。之は細胞の機能或は増殖と環境の變化に關係する問題と考えられる。
13) 固定標本に於て酸フクシン或は鐵ヘマトキシリンを用い腫瘍細胞に檢出される顆粒を見ると短桿状或は顆粒状を呈し,胞體に散在する。核小體は大型複雜な形態を示し數も一定しない。
14) ヤーヌス緑,中性赤複染色で顯出しない場合でも2,3の溶液例えば生理的食鹽水,Ringer氏液,一定濃度のCaCl2,MgSO4,KCl溶液,Vitamin B,葡萄糖,唾液,血清(鷄)等でヤーヌス緑可染體が顯出する。

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© 日本癌学会
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