Print ISSN : 0016-450X
發癌組織における糖代謝酵素系の切断に關する實驗的研究
第1報
天野 重安瀧野 義忠田頭 勇作
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1950 年 41 巻 1 号 p. 27-36_1

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抄録

肉腫が濃厚葡萄糖の注射で發生せしめうるという西山氏の新知見は,この物質が生體に生理的に存在するだけに我々の關心を強くひく。我々は葡萄糖に代えて糖原を用いても同樣に肉腫の發生することを認めた(天野•伊東)。さて,今日腫瘍新陳代謝の特性と目せられているものは糖代謝形式である。その特殊の糖代謝形式と前述の強度の糖の負荷との間には必ずや重要な腫瘍發生の要約が陰されていることと考えちれる。
そこで我々はこの糖負荷に際する,糖代謝の何の部分が發癌性に作用するのであるかを窺知するため,糖代謝酵素系の切斷を計畫した。それは一沃度醋酸乃至は弗化曹達の使用によってこの糖分解をトリオーゼ以前の状態に止めるとか,トリオーゼの段階に止める樣にして,その場合に肉腫發生が如何に影響されるかを差當って調べることである。
この實驗には二種の豫備階梯が必要で,1.長期間の一沃度醋酸乃至弗化曹達注射を行うに適した最高耐量を決定すること,及び,2.この耐量が同時に注射された葡萄糖の分解に明かに影響しうることを化學的定量的に確認しおくことである。過去數年の準備實驗によつてこれらの條件が滿足せられることが判明したので次の如き本實驗を試みた。
I 群 20%葡萄糖1cc.隔日注射+0.4g/dl弗化曹達0.5cc同時注射
II群 20%葡萄糖1cc.隔日注射+0.4g/dl一沃度醋酸0.5cc同時注射
III群 20%葡萄糖1cc.隔日注射+0.8%食鹽水0.5cc同時注射
なお各群の動物にはこのほかに5%0-Amidoazotoluol 0.3ccを週1回(第2ケ月以後は2週間に1回)上記注射部位に注射した。
これらの動物は200日以上生存せるもの各群に7匹ずつあり,これらの動物中肉腫の發生しきたつたのは第II群(一沃度醋酸群)で,300日までの經過中において殆ど全例に於て肉腫が陽性であり,これらかち2移植肉腫株系を作りえた。第1群(弗化曹達群)及び第III群(對照群)からは同期間において肉腫の發生例は第1群に1例あり,第III群にはない,但し1年以後に於て此等の群からは少數の肉腫を發生した。
この實驗で用いた葡萄糖及び0-Amidoazotoluol量は西山氏の場合に比して遙かに少量であるから,第I群及び第III群の肉腫發生が低率なことは必ずしも異とするに足りない。これに比すれば第II群,即,一沃度醋酸の肉腫發生を促す性質は注目に値するものがある。このことは葡萄糖がトリオーゼに分解される以前の状態において作用した場合によく發癌性を發揮することを物語るものであろう。なお弗化曹達のこの程度の注射量では1ケ月後には特有の齒牙變化を呈するが,それ以上の中毒性變化を呈していない。

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