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腫瘍細胞の免疫病理学的特異性
武田 勝男
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1955 年 46 巻 4 号 p. 567-584

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抄録

癌細胞に特殊な抗原性が存するか否かを11系のラッテ腹水癌をマウスに異種移植して検した。用いた腹水癌は形態機能的にI) 吉田肉腫型 (吉田肉腫, MTK 1-3, 弘前肉腫), II) 武田肉腫型 (武田肉腫, 臼淵肉腫), III) 肝癌型 (AAT 1, 2, DAB 1, 2) の3型である。
これらの腹水癌をマウス腹腔に移植すれば5日前後(肝癌では8日)よく増殖し後免疫の発生によって急激に自然治癒し, その後は同癌の再移植, 同型癌の交又移植を300日以上強く阻止して take されない。しかし異型の腹水癌を交叉移植すれば治癒後50日までは明かに移植は阻止されるがそれ以降の移植は正常マウス同様阻止されない。対照として感受系ラッテ組織でマウスを免疫すれば30日間はすべてのラッテ腫瘍の移植を共通に阻止するが以降の移植はいずれも正常マウスに等しい。
すなわちラッテ癌自然治癒後の抗移植性免疫は 1) 短時日すべてのラッテ癌移植を共通に阻止する正常ラッテ組織免疫とも共通な種属特異性免疫と 2) 長期間上記3腫瘍型間に独立した抗移植性を示すラッテ正常組織と無関係な抗原に基く腫瘍型特異性免疫の2つの因子からなる。
ラッテ各癌を凍結乾燥, 凍結融解してマウスを免疫すればすべてのラッテ癌移植を共通に20日間阻止し, 正常ラッテ組織を同様に処理して免疫しても同一の結果を得る。すなわちかかる方法で腫瘍型特異抗原性は低下し, 種属特異抗原性は安定である。
しかるにラッテ癌を5%のフオルモールあるいは5%の三塩化醋酸処理後水洗してマウスを免疫すれば免疫原癌と同型の癌移植を20-30日間強く阻止するが, 異型癌の移植ははじめから正常マウス同様に成立する。対照として感受系ラッテ組織を同様処理して免疫しても各癌のtake は阻止されない。すなわちかかる処理では逆に種属特異性因子は消失して腫瘍型特異性因子のみが残り, 両抗原因子はその性状を異にすることを知る。
以上の事実からラッテ腹水癌細胞にはラッテ正常組織と共通な抗原性がある他になお各癌に特異な抗原性があり, この後者は同一の形態機能を有する一定の腫瘍型間にのみ共通で, 正常組織および他型癌から独立した特殊な抗原性であると思われる。

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