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胃癌発育時における間質多糖類の態度
木村 勇
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1955 年 46 巻 4 号 p. 549-566_4

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抄録

腫瘍組織の発育像はその悪性度診断の上に重要な所見とされているが, 炎症におけると同様 Host-parasite Relationship 追究の要請されねばならぬことはすでに諸家の触れる所である。かかる二重の生物学的見知に立ち人胃癌発育の態度とともに同所間質内多糖類の所見を組織化学的に検索を行った。
腫瘍は同一例にあっても部位環境によってその組織橡並びに発育型を異にするが, 間質多糖類の所見もまた腫瘍の発育環境, 発育型の変化に伴って変動し, この種反応が個体の腫瘍に対する全体的表現でなく, 局所的な腫瘍, 間質間の相互関係に規定せられると同時にまた該部位の膠原繊維の所見と密接なる関係を持つことが認められる。その個々の部位における反応態度を同所の膠原繊維の所見と併せわれわれは次の如き四型に分ちこれを整理した。
1) 無反応型; 多糖類反応陽性物質 (PSP) の増量が顕著でなく, 膠原繊維もまた増生を見ない。
2) 多糖類型; 膠原繊維の新生は極めて乏しく, 一部に既存繊維の膨化が見られ, かつPSPの増量顕著なるもの。
3) 多糖類繊維型; 前者と次の繊維型との移行型と考えられるもので, PSP増量とともに微細膠原繊維の増生が見られる。
4) 繊維型; 膠原繊維の増生, 生長著しく, PSPはむしろ減少している。
多糖類の重合度を示す異染性は多糖類型に強く, 他の型に属すべき反応部にては極めて微弱であり, 中馬の成績と比較考案し, これらの諸型は反応の時間的経過に因るものと考えられる。以上の諸型を腫瘍の発育型 (今井) に対応せしめると肥大発育部は無反応型を, 延伸発育部および簇出発育部にてはその時間的経過に応じて多糖類型, 多糖類繊維型を示し, とくに簇出発育部位ではしばしば多糖類型を示し, 腫瘍の発育型と多糖類性反応の間には一連の関連を求めることができる。
これらPSPの増量は腫瘍発育先進部および近隣血管周囲より起り, 前者については中馬の述べるが如き局所基質の解重合に基くPSPの増量とともに, 血液成分由来のPSPの存在もまた考慮せしめられ, 瘢痕部, 筋層における多糖類性反応の微弱なる事は同所の血管保有量の乏しい事にも依るものであろうか。
之等PSPの増量刺戟として, 腫瘍の異物性, 腫瘍発育に伴う組織の離断, 並びに膠様物質の化学的刺戟よりむしろ近時多数報告されつつある腫瘍組織の産生する諸組織融解性酵素(Hyaluronidase, Trypsin 等) を重視したい。
最後に組織化学的な基礎的問題として, 水溶性固定剤によっても青木の分類せるγ物質を証明し得たとともに, その成績から可溶性固定液を使用しても被検物質が巨大分子の一部を形成せる場合は基材の困定が同物質の固定に他ならないとの Lison の考えを支持したい。なおフォルマリン固定液を使用せる場合は間質多糖類は結合織繊維上に附着凝集して認められ, 純アルコール固定時の瀰漫性な徴細顆粒状像とその所見を異にする。

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