Print ISSN : 0016-450X
乳癌の核酸代謝の研究
特に性ホルモンの影響について
藤森 正雄矢走 英夫石塚 稔三浦 義彰
著者情報
ジャーナル フリー

1957 年 48 巻 2 号 p. 189-197

詳細
抄録

ヒトの乳腺腫瘍, 特に乳腺症, 乳癌などの推移に著者等は興味をもち, 次のような実験を行った。すなわち23Pをトレーサーとして, あるいは患者に静脈内注射を行った後に外科的に乳腺組織を剔出, あるいは剔出した組織を in vitro で32Pとともに反応を行わせ, 乳腺組織の燐脂質及びリボ核酸を抽出してその量と放射能を測定した。その結果, 32Pを静脈内注射した例では一定の傾向は得られなかったが, in vitro で反応させた場合には次のような傾向がみられた。
(1) 乳腺症組織よりも乳癌組織の方に燐脂質量の多いこと。
(2) 乳腺症組織よりも乳癌組織の方がリボ核酸の相対比放射能が高いこと。
(3) 予め男性ホルモンを注射した患者の乳癌組織のリボ核酸の相対比放射能は低いこと。
(4) 50才以後の患者には男性ホルモンより女性ホルモンの投与の方が乳癌組織のリボ核酸の相対比放射能を低めること。
(5) 8-アザグアニンは in vitro で乳癌組織のリボ核酸の相対比放射能を低めること。以上の事実から著者等は次のように推論している。すなわち
(1) 乳癌組織自体の燐脂質の相対比放射能はさして高くしないところから, 乳癌に燐脂質量の多いのは肝において合成され血流によって運ばれる燐脂質が乳癌組織では乳腺症組織にくらべ特によく沈着するのであろう。
(2) リボ核酸の相対比放射能の高低はおそらく蛋白合成の度に平行関係のあることを示唆するから, 乳癌組織では乳腺症組織にくらべ蛋白合成が盛であると考えられ, かつこの代謝は性ホルモンのバランスによって影響を受けているものと思われる。

著者関連情報
© 日本癌学会
前の記事 次の記事
feedback
Top