Print ISSN : 0016-450X
SL純系マウスの特発性乳腺癌中に発見された一新ウィルス種及びその増殖態度について (超薄切片の電顕的研究)
市川 康夫天野 重安
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1958 年 49 巻 1 号 p. 57-64_4

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抄録

C3Hの乳癌細胞中に特有の封入体と増殖様式とを示すウィルスの発現することは, もはや, 確認されているが, このような乳癌発生系に属しない系統のマウスに認められる特発性のマウス乳癌においても, 同様に, ウィルスが存在するかは別の重要課題である。白血病頻発マウスSL系の飼養観察中に, 極めて稀であるが, 乳癌の発生を認めて, これを電顕的に超薄切片によって観察中, 形態•大さにおいて全く Milk factor 類似のウィルス (50~70mμ×75~100mμ大にて核様物を備える) を確認した。このウィルスは癌細胞腺腔面の細胞膜直下で生じ, 直ちに腔内に排出されるが, 鈴木氏がC3H, DBA系で示した如き細胞内封入体や, 細胞内増殖集団は作らない。従ってその増殖様式は Morgan 等のインフルエンザウィルス増殖の形式に従うものといえよう。しかしながらわれわれの場合, ウィルスを作る細胞小突起には軸の位置に中心繊状物があり, この中心繊状物の一端はウィルスが完成して細胞小突起の尖端から離断する際にその中に含まれ核様体となる。これは該ウィルスの外内構造の二元性を物語るものである。ウィルスが癌性増殖に関与するためには, 核内増殖では不適当であり, 細胞質においても大規模な増殖巣を作ることは, むしろ腫瘍増殖を妨害することになる。この度のわれわれの腫瘍ウィルスの如き増殖形式は腫瘍の発現のために一つの適当な存在様式と解される。腫瘍性ウィルスの増殖様式自体が一つの研究課題であるとき, この一例の所見は動物および人の腫瘍ウィルス探索上一示唆を与えるものであろう。

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