要旨 近年動物実験において,神経幹細胞移植治療が脳出血後の神経機能回復を改善させることが示されているが,ホスト組織の劣悪な環境が移植細胞の生着を妨げ,治療効果を減弱させる要因となっている.我々は,この幹細胞の傷害機序として,血腫分解物であるヘモグロビンによる酸化傷害に注目し,遺伝子操作により抗酸化特性を強化した神経幹細胞移植の効果を検討した.内因性の細胞内活性酸素分解酵素であるcopper/zinc-superoxide dismutase(SOD1)を過剰発現させた神経幹細胞では,野生型神経幹細胞に比較し,ヘモグロビンによる酸化傷害が軽減し,移植後の生存率が有意に改善した.これに伴い,移植周囲の神経栄養因子の発現量が増加し,神経保護作用が促進され,脳出血後の神経機能の回復が改善された.抗酸化特性を強化した神経幹細胞移植は脳出血の新たな治療となりうる可能性が示唆された.