脳循環代謝(日本脳循環代謝学会機関誌)
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原著
  • 佐瀬 茂, 山本 誉麿, 伊東 英奈, 中西 幸治, 澤 温
    2018 年 30 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/03/20
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,2分吸入キセノンCTにより,従来施行されてきた4分吸入に匹敵する脳血流量(cerebral blood flow: CBF)画像が得られることを示すことである.75歳以上で連続8人の受診患者を対象に,2分吸入キセノンCTを実施した.撮影は,基底核および側脳室断面とした.30%キセノンの吸入は2分間,洗い出しは3分間とした.断面周辺に一定数の円形関心領域(ROI)を隣接配置しCBFを求めた.4分吸入/4分洗い出し(従来法)で得た,アルツハイマー型認知症(Alzheimer’s disease: AD)患者のCBF範囲(AD範囲)と,健常者のCBF範囲(正常範囲)を利用し,ROI分布値(AD範囲内ROI数-正常範囲内ROI数)を求めた.従来法で得たROI分布値の最適カットオフ値を利用すると,正常と診断された患者(1人)は“正常”と同定され,ADと診断された患者5人のうち4人が“AD”と同定された.従来の最適カットオフ値が有効であったことから,2分吸入によるCBF画像は,従来の4分吸入によるものに近い局所(平均)定量値を有すると考えられた.

症例報告
  • 山田 英忠, 向井 智哉, 棚橋 梨奈, 荒木 睦子, 仲 博満, 時信 弘
    2018 年 30 巻 1 号 p. 83-87
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/03
    ジャーナル フリー

    【はじめに】中枢性塩類喪失症候群は頭部外傷やくも膜下出血後に低Na 血症と脱水を来す疾患群である.今回,それぞれ異なる主訴と受診経緯で来院した3 症例を経験したため報告する.【症例】症例1, 2 は意識障害と水頭症精査のために受診した86 歳女性,83 歳男性である.いずれも低Na 血症,低尿酸血症,外傷後の閉塞性水頭症を認めた.症例3 はめまい,嘔気にて受診した51 歳女性である.低Na 血症,低尿酸血症を認めた.外傷歴,検査所見よりいずれも中枢性塩類喪失症候群と診断した.【考察】中枢性塩類喪失症候群の機序は不明な点が多いが,Na 利尿ペプチドによる近位尿細管でのNa,尿酸,水の再吸収抑制との関連が指摘されている.循環血漿量減少にもかかわらず,低尿酸血症を認めることが特徴的である.【結語】頭部外傷後に進行する低Na 血症では本疾患を積極的に疑い,低尿酸血症の確認,低Na 血症,脱水の補正が必要である.

シンポジウム 1 急性期虚血病態を治す/急性期脳虚血病態を診断する
  • 井上 学
    2018 年 30 巻 1 号 p. 29-33
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/03
    ジャーナル フリー

    急性期脳梗塞の治療は成熟期を迎えつつある.経静脈rt-PA(recombinant tissue-type plasminogen activator)投与療法と血管内治療デバイスを用いた再灌流療法が治療の主軸となり,従来の治療時間枠を大幅に超えた再灌流療法が可能になる時代が目の前に来ている.どのような画像背景を持つ症例がこのような再灌流療法に適しているのか,様々な研究が進んでいる.実臨床に役立つ灌流画像を使用したペナンブラの評価は転帰予測の指標の一つでもあり,MRI(magnetic resonance imaging)の拡散強調画像(DWI: diffusion weighted image)もしくはCT(computed tomography)灌流画像の局所的脳血流量(CBF: cerebral blood flow <30%;対側比)と造影灌流画像のTmax(time-to-maximum)の比較(mismatch)を検討することにより,治療予後を判定することが可能と言われている.最新の知見を交えて灌流画像の有用性を考察する.

  • 柴田 益成
    2018 年 30 巻 1 号 p. 89-94
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/03
    ジャーナル フリー

    4D-CTA は,造影剤の脳への到達から wash out まで全時相の CTA を撮像するもので,CTA の迅速性・非侵襲性に,DSA の flow dynamics の解析力を併せ持つモダリティとして開発された.従来,4D-CTA は,頭蓋内シャント疾患や出血性疾患の病態解析に用いられてきたが,近年それ以上に期待されるのは急性脳主幹動脈閉塞(ELVO)の病態解析である.当施設では, 64 列の MDCT と shuttle mode を用い ELVO に対する再開通療法の成否に関する以下の決定的情報を得ている.(1)血管閉塞部位,(2)collateral の様式と程度,(3)ペナンブラとコアの推定,(4)血栓の位置,範囲,性状.本稿では, 2015 年 2 月~2017 年 5 月,当施設で施行した 432 件の緊急 4D-CTA 施行例をもとに,急性期脳虚血病態評価における本モダリティの有用性と可能性を提示する.

シンポジウム 5 Brain science を探る:血液脳関門を中心に
  • 下畑 享良
    2018 年 30 巻 1 号 p. 11-15
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/24
    ジャーナル フリー

    我々は,tPA 療法後の脳出血合併症を防止する治療の開発を目指している.この新規治療の開発は,予後の改善と,tPA 療法の治療可能時間域の延長をもたらす可能性がある.この目的のため,まず血管リモデリングに関与する血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor: VEGF)を標的とした血管保護療法を検討し,ラット脳塞栓モデルにて,VEGF 抑制薬が脳出血合併症を防止することを明らかにした.これに引き続いて,日米の知的財産権の取得,米国における創薬ベンチャーの設立,ヒト試料を用いた臨床研究を行った.現在,製薬企業との共同研究を模索している.さらに我々は,血管保護作用に加え,神経細胞保護作用,抗炎症作用を併せもつ脳保護薬候補として,成長因子プログラニュリンが有望であることを見出し,臨床応用を目指している. 本稿では,tPA 療法と血管保護薬,脳保護薬の併用療法の実現を目指したトランスレーショナルリサーチを紹介したい.

  • 齊藤 聡
    2018 年 30 巻 1 号 p. 23-28
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/08/23
    ジャーナル フリー

    脳アミロイド血管症(cerebral amyloid angiopathy: CAA)は脳出血や脳梗塞等の脳血管障害の原因となり,近年アルツハイマー病との密接な関連が明らかになった病態である.アミロイドβ の排出障害はCAA 発症の一因であり,脳内の中小動脈壁へのアミロイドβ の沈着は,アミロイドβ の排出経路の一つであるIPAD(intramural periarterial drainage)経路と重なっている.そのためIPAD の促進は,CAA の新規治療法として期待されている.PDE-3 阻害剤であるシロスタゾールは,CAA のモデルマウスでIPAD を介したアミロイドβ の排出を促進させた.カテコール型フラボノイドであるタキシフォリンは,アミロイドβ のオリゴマー化を抑制し,アミロイドβ40 の血中への排出を促進させた.シロスタゾールとタキシフォリンの併用療法はCAA の新規治療薬として期待される.

  • 松山 知弘, 中込 隆之
    2018 年 30 巻 1 号 p. 71-75
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/03
    ジャーナル フリー

    我々は,マウス脳梗塞モデルを用いて脳虚血傷害時に特異的に産生される血管壁細胞由来多能性幹細胞の存在を見出し,虚血ペリサイト(ischemic pericyte: iPC)・虚血傷害誘導性多能性幹細胞(ischemic injury-induced multipotent stem cell: iSC)と命名した.この幹細胞は,すでにヒトでも同定されており,神経機能単位であるneurovascular unit を構成するすべての細胞に分化しうるため脳梗塞後の脳組織そのものの修復機構に関与する可能性がある.正常脳に存在するペリサイト自身は幹細胞ではないが,潜在的な多能性幹細胞として組織修復に関わる可能性があるため,今後の脳梗塞をはじめとした中枢神経疾患の治療に活用できると考えている.

新評議員
  • 吉村 紳一, 内田 和孝, 髙木 俊範, 山田 清文, 白川 学, 立林 洸太朗
    2018 年 30 巻 1 号 p. 17-22
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/07/24
    ジャーナル フリー

    我々が行っている急性期脳梗塞の予後改善を目指した基礎・臨床研究とその展望を紹介する.1)血栓回収療法普及プロジェクト(RESCUE-Japan Project):本治療の有効性は確立したが,未だ十分に普及していない.このため,全国調査の結果をもとに,治療の推進に取り組んでいる.2)救急隊用脳卒中病型予測スコア開発:脳梗塞患者の予後改善のためには迅速かつ適切な搬送が必須である.我々が開発したこのアプリケーションは診断率が高く,救急搬送に応用していく.3)急性期脳梗塞および頸部・頭蓋内動脈狭窄に対する脂質低下療法に関する臨床試験:スタチンを用いた研究をベースにPCSK-9 阻害薬を用いた研究を開始する予定である.4)急性期脳梗塞に対する細胞療法の基礎・臨床研究:梗塞後の機能回復を目指した再生医療研究として,骨髄単核球,傷害誘導性多能性幹細胞,羊膜由来間葉系幹細胞を用いた臨床研究を行う予定である.

  • 野崎 和彦
    2018 年 30 巻 1 号 p. 35-39
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/03
    ジャーナル フリー

    脳動脈瘤の発生,増大,破裂機構を解明する研究において脳動脈瘤壁における炎症,とくにマクロファージの関与の重要性が報告され,炎症プロセスをターゲットとした治療法の開発が進められている.また,本邦の大規模コホート研究を含め脳動脈瘤の破裂に関与する因子解析が進められ,人種差,高血圧,年齢,脳動脈瘤の大きさ,くも膜下出血既往,脳動脈瘤の部位の各因子に重み付けを加えた破裂予測スコアが発表されている.最近の画像診断の進歩に伴い,脳動脈瘤壁の画像を用いて破裂のリスクを評価する研究,さらに,薬剤投与により脳動脈瘤増大,破裂を予防する臨床研究も進められており,今後,脳動脈瘤における増大破裂リスク予測の精度の向上が期待される.

  • 間賀田 泰寛
    2018 年 30 巻 1 号 p. 41-45
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/07
    ジャーナル フリー

    脳梗塞などの脳循環疾患発症後の病態は,脳血流量(CBF),脳酸素摂取率(OEF),脳酸素代謝率(CMRO2)などの脳循環代謝パラメータの変化と密接に関連している.これらパラメータの測定には[15O]O2 ガスを用いた陽電子断層画像イメージング法(PET)が有用であるが,臨床では通常治療におわれPET を施行している余裕はない.そのため,脳循環疾患発症後の急性期での脳循環代謝状態を検討するためには,動物を用いた基礎検討が有効である.このような背景のもと,動物モデルで動物用PET 装置によりOEF やCMRO2 の測定を可能とする静脈内投与型[15O]O2 剤を開発するとともに,さらに,動物用SPECT 装置により,動脈採血することなく,定量的にCBF を評価することを目的として,[99mTc]HMPAO をトレーサーとする無採血定量的CBF 評価法を開発した.

  • 賀来 泰之
    2018 年 30 巻 1 号 p. 47-51
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/19
    ジャーナル フリー

    もやもや病は,原因不明の慢性進行性の脳血管障害であり,両側内頸動脈終末部に狭窄を生じ,側副血行路として脳底部に異常血管網(もやもや血管)が形成され,脳虚血症状や出血が起きる.もやもや病に対する直接血行再建術後の急性期に一過性の神経症候の悪化を伴う過灌流現象がみられることがあるが,その病態については不明な点が多い.われわれは,術後急性期に15O-gasPET を用いて過灌流の脳循環代謝の評価を行い,過灌流の病態を明らかにしてきた.過灌流の状態では脳血流量CBF は著明に増加し脳血液量CBV も増加,酸素摂取率OEF の低下が認められる.しかし,症候性の過灌流は脳循環動態の解析では評価できないその他の因子も関与しており,さらに多くの知見の集積による病態の解明を期待したい.

  • 茨木 正信
    2018 年 30 巻 1 号 p. 53-58
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/19
    ジャーナル フリー

    酸素15 標識ガスおよび標識水を用いたPET 測定(15O-PET)により,脳血流量(CBF)を含む主要な脳循環パラメータが高精度に,しかも1 回の検査で取得可能である.脳血管障害の病態評価における臨床的有用性が広く知られているが,近年では他モダリティによる脳循環測定法開発の評価ツールとしての役割も大きくなってきた.CT またはMR 造影剤の急速静注によるbolus-tracking 法や,最近急速に普及した動脈血スピンラベリングMRI 法が臨床利用されているが,CBF 測定手法としての妥当性は明確でない.これらの手法評価には,15O-PETによる脳循環測定との直接比較が非常に有効である.15O-PET のさらなる応用促進のため,検査法の短時間化,簡略化を目指した研究が期待される.

  • 髙木 俊範, 吉村 紳一
    2018 年 30 巻 1 号 p. 59-64
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/09/19
    ジャーナル フリー

    血栓回収療法の登場により脳梗塞治療はいま大きく変化している.脳梗塞に対する血管内治療を普及させるためのプロジェクト(RESCUE-Japan Project)による全国調査では,2016 年に7702 例(6.06 件/10 万人/年)の血栓回収療法が行われたが,これは全脳梗塞の約6%と試算される.我が国での血栓回収療法の普及は急務であり,治療体制の整備が求められている.一方で,血栓回収療法が適応となっても半数の患者は機能的自立が得られない.後遺症が残存した場合の治療として,我々は内因性の神経幹細胞である傷害誘導性多能性幹細胞(ischemia-induced multipotent stem cells: iSCs)を用いた神経再生療法に期待している.iSCs は脳梗塞巣内に存在し,良好な自己増殖能を持つ.その起源はペリサイトと考えられ,神経堤の性格をも併せ持ち,神経へ分化可能である.iSCs は生体の持つ神経修復機構に関与していると考えられ,近い将来の臨床応用が期待される.

  • 上野 祐司, 田中 亮太, 卜部 貴夫, 服部 信孝
    2018 年 30 巻 1 号 p. 65-69
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/03
    ジャーナル フリー

    脳梗塞後の軸索再生は,損傷後の組織再構築において重要な役割を担い,機能回復とも関連する.筆者は,ラット中大脳動脈閉塞モデルのperi-infarct area において,7 日後の急性期に脱落した軸索や樹状突起は56 日後の慢性期では再生していることを確認した.In vitro では,虚血後軸索の再生にはphosphatase tensin homolog deleted on chromosome 10/Akt/Glycogen synthase kinase 3β シグナルが関わることを報告した.ラット慢性脳低灌流モデルでは,L-carnitine 経口投与により脳白質において軸索再生とoligodendrocyte の再生によるミエリンの増強が生じ,慢性脳虚血ラットの認知機能障害が改善した.脳梗塞後の軸索再生,機能回復のメカニズムは多岐にわたり,今後軸索再生を目的とした脳梗塞新規治療薬の開発,実用化が期待される.

  • 中村 幸太郎, 中村 朱里, 大星 博明, 七田 崇
    2018 年 30 巻 1 号 p. 77-81
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/03
    ジャーナル フリー

    脳梗塞後の炎症は,次世代における脳卒中医療のための治療標的として注目されている.脳梗塞では,細胞死に伴って放出されるダメージ関連分子パターン(DAMPs: damage-associated molecular patterns)がマクロファージ・好中球を活性化し,炎症性サイトカインが産生されると,さらにT 細胞を活性化して炎症を遷延化させる.発症3 日目にはスカベンジャー受容体MSR1 を発現する修復性マクロファージが脳内に出現し,DAMPsを排除して炎症を収束させ,神経栄養因子を産生することによって修復に働く.脳梗塞における無菌的炎症は,DAMPs の働きのように,脳が自律的に制御する生体防御の一環であると捉えることができる.

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