抄録
要旨 脳虚血耐性現象は,短時間の非致死的虚血負荷により,引き続く致死的脳虚血に対して強力な脳保護効果を誘導する現象として注目されているが,その分子機構は十分に解明されていない.我々は心筋虚血や癌細胞の細胞死の制御に重要な役割を果たすSTAT3 に注目し,ラット一過性前脳虚血モデルを使用して脳虚血耐性現象へのその関与を検討した.虚血後,海馬CA1 神経細胞においてリン酸化STAT3(ser727)が誘導され,致死的虚血群では再灌流後早期(1 時間)に一過性に増加するのに対して,非致死的虚血群では再灌流後8 時間以降に増加し,2 日目でピークを迎えた.阻害薬によるSTAT3 の活性化抑制は,虚血耐性現象の脳保護効果を減弱した.非致死的脳虚血後に海馬CA1 神経細胞で誘導されるリン酸化STAT3(ser727)の発現は,虚血耐性現象の脳保護効果獲得に重要な役割を果たしていることが示唆された.