抄録
本研究で、我々は宿主(患者)内ウィルス進化を説明する新しい方法を提案する。本法は、経時的に連続サンプリングしたウィルスが示す多様な変異種から、これらの変異種の時間発展的な系統関係を明らかにする。また、中立進化だけでなくダーウィン進化も取り扱えるYangのコドン準拠法に基づき、ウィルス進化の時間発展の過程において、いつ、どのように正の淘汰進化と中立進化が起きているかを解析可能とした。我々はこれまでの研究で、最尤法に基づいた逐次リンクアルゴリズムにより予備的な解析を行ってきたが、尤度の計算量が膨大であり、また変異種の増加により指数的に考えうる系統関係が増加するという困難があった。本研究では、近隣結合法を利用した遺伝距離準拠型逐次リンクアルゴリズムを開発して、これらの困難を解決した。我々はこの方法をHIV-1ウィルスに感染したある1人の患者のHIV-1ウィルスのV3領域の経年サンプリングのゲノムデータに適用した。その結果、このアルゴリズムは宿主内ウィルス進化を説明する経時的な系統樹を再構成できた。