シクロヘキサン誘導体においては、置換基と隣接する水素原子の立体反発が少ないequatorial配座がaxial配座より優勢である。これが通常の立体化学的要請だ。ところが、環内に酸素原子を含む6炭糖では、α-アノマー(axial置換基)の方がβ-アノマー(equatorial置換基)より安定で、アノマー効果と呼ばれる。立体化学的な直感に両立せず、しかも広範に成立するこの現象は、いったいなぜ起きるのだろう。Edwardが報告していらい60年以上になるが、原因の解明に至っていない。現在、アノマー効果の説明として主流を占めているのは、酸素上の孤立電子対とC-R結合の反結合性軌道(σ*)との相互作用によるとするものである。本稿では、この説明が成り立たないことを論証する。