Chem-Bio Informatics Journal
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18 巻
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Original
  • 小西 智一
    2018 年 18 巻 p. 173-183
    発行日: 2018/12/07
    公開日: 2018/12/07
    ジャーナル フリー

    分子生物学が始まったころには、科学的な客観性が問題になることはあまりなかっただろう。しなしながら、相対主義がこの分野のいくつかの領域を侵しつつあり、分析結果の客観性を損ねている。その現状を、いくつかのケースを検証しながら紹介する。

  • 吉澤 剛, ファン・エスト・ リニー, 吉永 大祐, 田中 幹人, 標葉 隆馬, 小長谷 明彦
    2018 年 18 巻 p. 164-172
    発行日: 2018/12/01
    公開日: 2018/12/01
    ジャーナル フリー

    分子ロボティクスは環境の変化に適応し、自己組織化、進化できる人工的な分子システムの創成を目的とした学術領域である。本稿では分子ロボティクス技術の分野で責任ある研究・イノベーションをどのように促進するかについて検討する。そのためにまず、遺伝子組換え技術やナノテクノロジー、合成生物学やゲノム研究などの先進技術の日本における初期発展段階での社会的反応から教訓を得た。それは《適切な》専門家・ステークホルダーの発見と巻き込み、規制の更新、科学コミュニケーションにおける科学者および市民の巻き込みである。分子ロボティクスの社会的側面に関する学術的・社会的議論の現状として文献レビューや未来ワークショップ、シナリオワークショップを実施した。そこでは幾多の倫理的・社会的・政治的・文化的課題を提起し、次の数十年で起こる望ましい/望ましくないシナリオを描いた。Twitterのテキストマイニング分析では、幅広い市民において分子ロボティクスについての意識や関心、知識がまだ限定的であることを明らかにした。結論として、分子ロボティクスが責任あるイノベーションを可能にするには、分子ロボティクスの発展のスピードを掌握すること、技術的潮流を監視すること、テクノロジーアセスメントのための安定的な知識基盤を確立すること、そして分子ロボティクス研究者と社会科学者との持続可能な相互関係を構築することである。

  • 瀬戸 倫義, 加藤 稔, 小谷野 賢
    2018 年 18 巻 p. 154-163
    発行日: 2018/11/28
    公開日: 2018/11/28
    ジャーナル フリー

    静脈麻酔薬バルビツルはGABAA受容体(GABAAR)に作用し、GABAARは覚知消失の主要な標的チャネルである。バルビツルは対掌体によって作用副作用が異なり、安全な麻酔薬の開発には対掌体の作用メカニズムの解明が必要である。しかし、GABAAR結合部位における対掌体バルビツルの分子識別メカニズムは未解決の問題として残っている。本研究は分子ドッキングによりGABAARにおける対掌体の分子認識メカニズムを解明した。Amobarbital, (R)-, (S)-pentobarbital, (R)-, (S)-isobarbitalはGABAAR RのM2-M2’Transmembrane domain (TMD)、すなわちpropofol結合部位に結合することがわかった。(R)-, (S)-pentobarbitalは2.9 kcal mol-1の結合エネルギー差で対掌体識別していた。両者はbarbital環が主たる結合力となって結合し、不斉炭素に結合するmethyl基、propyl基の適合性(立体障害)が結合強度を修飾し、構造識別をすることが判明した。

  • 山中 雅則
    2018 年 18 巻 p. 123-153
    発行日: 2018/11/22
    公開日: 2018/11/22
    ジャーナル フリー

    フラグメント分子軌道法におけるフラグメント間相互作用エネルギー行列(IFIE行列)の統計的性質をランダム行列理論によって解析した。IFIE行列の固有値、固有ベクトル、その尖度、アンフォールドされた固有値間隔分布を対応するランダム行列と比較した。固有値分布の概形はウィグナー分布に一致しないが、ウィグナー分布の制限から外れる固有値は4個だけであった。固有ベクトルの尖度は局在側に乖離するものが多い。アンフォールドされた最近接固有値間隔分布はガウス型直行集団の解析値に、次近接固有値間隔分布はガウス型シンプレクティック集団の解析値と無矛盾であった。ランダム行列理論の尖度に基づいて、強く相互作用するフラグメントのクラスター解析を行った。第1固有ベクトルの有意な成分の分布は2値分布となり、相互作用するフラグメントが、主成分分析の意味でほぼ同じ重みで相互作用していることを表している。第2、第3、第4固有ベクトルは第1固有ベクトルの部分集合となっていること、尖度がランダム行列から大きく乖離した固有ベクトルが更にそれらのベクトルの部分集合となっているなど、相互作用クラスターの階層構造の分類を詳細に行った。

  • 我妻 竜三, 岸 早絵, Gutmann Greg, 小長谷 明彦
    2018 年 18 巻 p. 96-118
    発行日: 2018/09/19
    公開日: 2018/09/19
    ジャーナル フリー
    電子付録

    本論文では、陽溶媒中でのDNAオリガミ構造体のMDシミュレーションに無機支持膜を利用した新しい手法を紹介する。 典型的な原子数は、水分子を含むと約1600万を超える。 GPU対応のMDシミュレーションエンジンを利用して、通常のイオン強度と脱イオン水条件下でのDNAオリガミ構造体の構造変化を1ナノ秒オーダーのシミュレーション時間まで解析し比較検討を行った。その結果、通常のイオン強度の場合は大きな構造変化は見られないが、 脱イオン条件下では絶え間なく伸長運動することが明らかになった。またオーダーパラメータZp'を用いてDNAオリガミ構造のヘリックス型の統計解析を行ったところ、陽イオンだけでなく水の誘電率も伸長運動中のB-DNAヘリックス型コンホメーションの維持に寄与していることが示された。これらの結果は、スキャフォールド、コネクター、チャネルなどのDNAオリガミ構造コンポーネントのアセンブリとして分子ロボットを設計する際に重要となる性質を提示している。

  • 土居 秀男, 奥脇 弘次, 内藤 貴充, 齋藤 天菜, 望月 祐志
    2018 年 18 巻 p. 70-85
    発行日: 2018/06/30
    公開日: 2018/06/30
    ジャーナル フリー

    私達は、散逸粒子力学(DPD)シミュレーションのための軽量なコードを開発しました。 このFortranプログラムCAMUSには、注目すべき機能が二つほどあります。 一つは、いわゆる隣接粒子リストの生成を省略することで、1ステップ当たりの処理時間を短縮し、さらに粒子数に比例して計算コストがほぼ直線的に増加するスケール性を示す点です。 もう一つは、タンパク質構造を記述するのに重要な付加的な(1-3, 1-5のMorse結合などの)相互作用を容易に導入出来る点です。DPDの実例として、モデルタンパク質を使ってα-helixおよびβ-sheetの形成を示しました。現在、CAMUSはGitHubサイトで自由に入手可能となっています。

  • 齊藤 天菜, 飯島 潤, 藤本 真悠, 望月 祐志, 奥脇 弘次, 土居 英男, 古明地 勇人
    2018 年 18 巻 p. 58-69
    発行日: 2018/04/03
    公開日: 2018/04/03
    ジャーナル フリー

    私達は、可視化されたフラグメント分子軌道(FMO)計算の結果を認識させるために、GoogleのTensorFlow深層学習ツールキットを応用しました。α-ヘリックス、およびβ-シートの典型的なタンパク質構造は、IFIE-mapと呼ばれるフラグメント間相互作用エネルギーの2次元マップにおいていくつかの特徴的なパターンを提示します(Kurisakiら、Biophys. Chem. 130(2007)1)。18個のタンパク質と3個の非タンパク質系を用いて、α-ヘリックスとβ-シートの存在の有無を示すパターンを有するIFIE-map画像を千枚ほど作成し、TensorFlowによる学習を行いました。学習終了後、TensorFlowに新しいデータを与え、構造パターンを認識する能力をテストしました。その結果、テストのIFIE-map画像における特徴的な構造が上手く判定されることを見出しました。以上より、TensorFlowによるIFIE-mapのパターン認識能力が実証されたと言えます。

  • 太田 新太郎, 富岡 将吾, 寒川 治城, 佐藤 陸, 藤森 史樹, Karpov Pavel , Shulga Sergey , Blum ...
    2018 年 18 巻 p. 44-57
    発行日: 2018/03/25
    公開日: 2018/03/25
    ジャーナル フリー

    健康食品に含まれるクルクミンは、微小管の構成要素であるチューブリンに結合し、チューブリンポリマーの形成を阻害することが報告されている。また、分子ドッキングシミュレーションを用いて、αチューブリンとβチューブリンから成るヘテロ二量体へのクルクミンの結合部位が予測されている。しかし、クルクミンとチューブリン間の特異的相互作用は、電子レベルでは未解明である。本研究では、チューブリン単量体へのクルクミンの結合部位を明らかにするため、フラグメント分子軌道計算を用いて、クルクミンと熱帯熱マラリア原虫のαチューブリン及びβチューブリンとの結合特性を電子レベルで解析した。その結果、クルクミンは、既存の微小管不安定化剤と同じ程度の強さでチューブリンに結合し、チューブリンのポリマー形成を阻害する薬として機能する可能性があることが明らかになった。

  • 武田 涼介, 鈴木 理恵, 小林 一徹, 河合 健太郎, 橘高 敦史, 上村 みどり, 栗田 典之
    2018 年 18 巻 p. 32-43
    発行日: 2018/03/21
    公開日: 2018/03/21
    ジャーナル フリー

    ビタミンD受容体(VDR)とキラリティーが異なる2種類のリガンド間の結合親和性が実験により解析され、リガンドのキラリティーの違いにより、VDRへの結合親和性が大きく変化することが見出された。この原因を明らかにするため、VDRと2種類のリガンド間の特異的相互作用を、ab initio フラグメント分子軌道(FMO)計算を用いて調べた。 その結果、リガンド中でキラリティーが異なる部位が、VDRのヒスチジン残基側鎖のイミダゾール環と強く相互作用し、VDRとリガンド間の結合特性性がヒスチジンのプロトン化状態に依存することが明らかになった。

  • 矢城 陽一朗, 木村 崇知, 亀澤 誠, 直島 好伸
    2018 年 18 巻 p. 21-31
    発行日: 2018/02/28
    公開日: 2018/02/09
    ジャーナル フリー

    我々は数年来、生体分子化学計算によって、Burkholderia cepacia lipase (BCL) やCandida antarctica lipase typeB (CALB) の鏡像体選択性や反応性を非経験的に解析、予測する研究を行っている。本研究では、CALBと数種の第一種および第二種アルコール系エステル基質との複合体について、分子動力学 (MD) 計算とフラグメント分子軌道 (FMO) 計算を実施した。MD計算から、選択性が高い基質の複合体において、合成実験で優先的に変換される鏡像体はCALBの活性中心付近にとどまり、一方、変換されにくい鏡像体は活性中心から直ちに離れていく様子が認められた。また、選択性が低い基質の複合体では、(R)-体と(S)-体の両鏡像体ともCALBの活性中心付近にとどまっていることがわかった。FMO計算によるCALBのアミノ酸残基と基質分子との相互作用エネルギー解析の結果、選択性が高い基質では、優先的に変換される鏡像体の全てがCALBのアミノ酸残基THR40と強く相互作用していることが認められた。それに対し、変換されにくい鏡像体では、THR40を含めアミノ酸との相互作用はほとんど認められなかった。一方、選択性が低い基質では、その両鏡像体ともにTHR40を含む同じようなアミノ酸と相互作用していることが判明した。これらの結果から、THR40が基質の鏡像体認識における重要なアミノ酸残基であると推定できる。

  • 永井 純子, 加賀谷 肇, 植沢 芳広
    2018 年 18 巻 p. 1-9
    発行日: 2018/01/11
    公開日: 2018/01/11
    ジャーナル フリー

    高齢者における薬物の多剤併用により、抗コリン作用の重複による有害事象が問題となっている。薬物による抗コリン作用の負荷を推測するために、様々な抗コリン作用評価尺度が作成され用いられているが、作成者により評価が異なるなど、いくつかの問題点が指摘されている。本研究においては、抗コリン作用のより正確な判別と、抗コリン作用を有する薬物の特徴を把握することを目的として、薬物の物理化学的性質を表す記述子を用いて抗コリン作用の判別モデルを決定木により作成した。5分割交差検証法により良好な汎化性能を示す判別モデルを作成した(R2=0.681)。さらに、抗コリン作用を有する薬物を判別するための化学構造的特徴量として、ファンデルワールス表面積や部分電荷、および分子形状と関連する6種類の記述子(ASA_P、GCUT_PEOE_0、opr_brigid、PEOE_VSA+1、GCUT_SLOGP_0、 vsa_pol)が重要であることを明らかにした。この結果は、薬物のムスカリン受容体に対する親和性において、静電的相互作用とともに疎水性相互作用が重要な要因として寄与していることを示唆していると考えられる。

comminucation
  • 中野 達也, 福澤 薫, 沖山 佳生, 渡邉 千鶴, 古明地 勇人, 望月 祐志
    2018 年 18 巻 p. 119-122
    発行日: 2018/10/05
    公開日: 2018/10/06
    ジャーナル フリー

    フラグメント分子軌道(fragment molecular orbital; FMO)法は、巨大分子系の電子状態の計算方法として、近年注目を集めている。FMO法の高速化の理由の一つとして、離れた二つのモノマーからなるダイマーを、静電相互作用する二つのモノマーで近似するというdimer-es近似が上げられる。これにより全てのダイマーの電子状態を計算することなく、系全体の電子状態を計算することが可能となる。Dimer-es近似の精度をコントロールするパラメータとしては、二つのモノマーの最近接原子間距離が、原子のvan der Waals半径の和の何倍からdimer-es近似を適用するか(Ldimer、GAMESS版FMO法では、RESDIMと呼ばれる)が重要となる。そこでこの論文では、側鎖分割したペプチドについて、6-31G*基底関数を用い、Ldimerを変えて、FMO2-HF~FMO4-MP2法の計算レベルで計算を行い、HFエネルギー及びMP2電子相関エネルギーの計算精度に対する影響について検討を行った。

Opinion
  • 西尾 元宏, 河野 雄次
    2018 年 18 巻 p. 86-95
    発行日: 2018/07/20
    公開日: 2018/07/20
    ジャーナル フリー

    シクロヘキサン誘導体においては、置換基と隣接する水素原子の立体反発が少ないequatorial配座がaxial配座より優勢である。これが通常の立体化学的要請だ。ところが、環内に酸素原子を含む6炭糖では、α-アノマー(axial置換基)の方がβ-アノマー(equatorial置換基)より安定で、アノマー効果と呼ばれる。立体化学的な直感に両立せず、しかも広範に成立するこの現象は、いったいなぜ起きるのだろう。Edwardが報告していらい60年以上になるが、原因の解明に至っていない。現在、アノマー効果の説明として主流を占めているのは、酸素上の孤立電子対とC-R結合の反結合性軌道(σ*)との相互作用によるとするものである。本稿では、この説明が成り立たないことを論証する。

  • 西尾 元宏
    2018 年 18 巻 p. 10-20
    発行日: 2018/01/30
    公開日: 2018/01/30
    ジャーナル フリー

    科学者の世界にあまねく流布している「疎水結合」や「疎水力」の概念(用語)がもたらす重大な弊害について述べた。Hildebrandと篠田の厳しい批判、Israelachvili、Tinocoらの教科書に見られる正確な記述のほか、多くの研究者のコメントを紹介する。疎水結合概念は有害で、「現代科学の神話」というべきである。

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