日本セトロジー研究
Online ISSN : 2434-1347
Print ISSN : 1881-3445
成長に伴うマイルカの頭骨の形態の変化について
山本 智谷田部 明子
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ジャーナル オープンアクセス

2013 年 23 巻 p. 7-12

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抄録

鯨類の頭骨がもつテレスコーピング(Telescoping)という形態学的特徴は、呼吸や発声、摂餌などを水棲生活へ適応した結果と考えられているが、新生仔は成体と異なり、未発達のまま出生する。そこで、本研究では新生仔から成体までの93個体のマイルカ(Delphinus delphis)の頭骨を用いて外観の観察および計測を行い、成長に伴う形態変化とその意義を考察した。頭骨背側面の外観所見より、幼若時には吻部に対し脳頭蓋部が相対的に大きく、間頭頂骨および頭頂骨、前頭骨が大きく視認できた。計測より、頭蓋骨基底長(CBL)に対する吻の長さ(LR)、吻先端から骨性外鼻孔までの距離(DRE)の値は、それぞれ右肩上がりにほぼ直線的に増加するとの結果を得た。しかし、CBLに対するLR および DREのプロポーションはその値が段階的に増加する傾向にあった。特にDREではこの傾向が強く、間頭頂骨が前頭骨に覆われることで脳頭蓋部全体の伸長が非常に緩やかな時期、テレスコーピングがほぼ終了し吻部の伸長が脳頭蓋部より早い時期、頭骨におけるプロポーションを保ちながら吻部と脳頭蓋が伸長する時期に分かれていた。これらの結果から、脳頭蓋が吻部に対して相対的に大きく見えることや成長に伴うプロポーションの変化に、間頭頂骨が影響を与えている可能性が示唆された。また、テレスコーピングが未発達のまま出生するメリットの一つに、前頭骨および間頭頂骨は脳頭蓋の構成骨であることから、脳の容積の確保が挙げられた。一方、デメリットの一つとしてエコロケーション時に音響反射鏡として機能する脳頭蓋の凹形状部が未完成のため、エコロケーションが十分に行えない可能性が考えられた。しかし、新生仔の時期は授乳を受けるため、このデメリットはほとんど影響がないと考えられ、脳の容積の確保は摂餌機能に関する器官や能力すべてに優先する可能性があると考えられた。

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© 2013 日本セトロジー研究会
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