日本先天異常学会会報
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脊髄裂および脊髄異形成の実験的研究 : 2.妊娠ラットへのtrypan blue投与により成立する脊髄異形成を伴った先天性仙椎欠損症
星野 清
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1971 年 12 巻 1 号 p. 11-19

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抄録

著者は妊娠ラットヘのtrypanblue投与によって胎仔に成立する脊髄裂の形態形成機序を観察し,さきに報告した.その際,脊髄裂ほど重篤ではないが,脊髄奇形の存在が予想される胎仔が多数観察された.これらの脊髄奇形は脊髄異形成の名のもとに抱括されるもので,臨床的にも比較的多くみられる異常である.本験実では,これらの例の胎生末期の状悠を観察することにより脊髄異形成の存在をたしかめ,さらに脊髄異形成の出生後の状態を観察し,ヒトの脊髄異形成をいしその類症との類似点を指摘した.Wistarラットの妊娠8日にtrypanb1ue水溶液40mg/kgを腹腔内に注射し,一部は出産予定前日の妊娠20日に胎仔をとり出し,外形観察,骨格倣木の観察および組織学的観察を行なった.残りの処理母獣はそのまま出産させ,奇形仔について発育の状態,行動,神経症状の有無などについて観察した.これらの奇形仔は生後23日から125日の間の種々の時期に解剖し,骨格はX線写真あるいは骨格標木で観察し,脊髄は肉眼的および組織学的に観察した.出生前の観察:生存胎仔152例中63例が脊髄裂,無尾,短尾,内反足または外反足を示し,躯幹下部の発育不全を伴なう例が多かった.これらの奇形仔には骨格似本により,腰椎の癒合,欠損,変形,仙尾椎の欠損,変形がみられ,組織学的観察により,脊髄が正常任にくらべ短かく,仙椎下部まで達していないものが多数みられた.出生後の観察:処理母獣77例中25例が奇形仔を3週間以上哺育した.出生時の外形観察で脊髄裂,あるいは無尾または短尾,内反足または外反足を示し,〓幹下部の発育不全を合併した例を脊髄異形成とみなした.これらの脊髄異形成では,後肢の運動麻痺,屎尿の失禁などの神経症状が生後1週から2週にかけて明らかとなり,麻輝した後肢では肋肉の萎縮が進行し,それに伴なって内反足または外反足のいずれかの状態が観察された.生後3週以後では屎尿の失禁による褥瘡が顕著になってきた.これらの例にはX線写真および骨格標本の観察によって腰椎の癒合,欠損,変形,側湾,前湾などのほか,仙尾椎の部分あるいは全欠損がみられた.また,脊髄は正常より高位で終る傾向があり,組織学的観察では中心管の分岐や,後索および側索の一部で髄鞘形成の遅延を示す例もあった.妊娠ラットのtrypanblne処理により出生仔に成立した脊髄異形成を伴なう先天性仙椎欠損症は,形態学的所見症状のいずれもヒトの先天性仙椎欠損症の症状に極めて類似し,本実験結果は,ヒトの先天性仙椎欠損症の原因の一つとして胎生環境の異変を考慮すべきことを示唆する.実験奇形学の分野では,奇形仔の哺育,生後観察は困難であるとされ,出産直前の観察が一般に行なわれているが,木実験では脊髄裂のような重篤な奇形を含めて,脊髄異形成の奇形仔を長期問飼育し,後肢の運動麻痒や尿尿の失禁などの利軽症状を観察することができた.中枢糾経系の発生障害の検索には,胎生期,新生児期の形態学的観察に止まらず出生後の行動異常,神経症状の観察が必要であろう.

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© 1971 日本先天異常学会
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