日本先天異常学会会報
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羊水穿刺によるラット胎仔の四肢欠損奇形
木野 義武
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1971 年 12 巻 1 号 p. 35-44

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抄録
羊水穿刺がつよい催奇形作用を示し,口蓋裂,四肢奇形が成立することはすでに報告されている.著者は羊水穿刺による実験的四肢奇形の成立機序を検討する目的で,Wistarラットの胎生期の各時期に羊水穿刺をおこない,四肢奇形の成立臨界期を確かめ,ヒトの先天性四肢切断および絞捉輪に,きわめて類似している欠損奇形の成立過程を経時的に観察した.妊娠第13,14,15および16日のラットを麻酔下に開腹L,片方の子宮角を実験側として胎仔のキ水穿刺をおこない,他方を対照側とした.術後腹壁を縫合し,胎令20日に再び開腹して胎仔をとりだし,実体顕微鏡下で観察した.奇形は四肢,口蓋に発生した.奇形成立頻度は胎令15日処理群迄は,処理した胎今日と共に増加し,15日処理群では胎仔の86%に奇形成立をみた.四肢奇形は後肢につよく現われ,欠指,短合指,背屈指,爪欠損,内反足,裂手のほか,妊娠15日処理群ではさらに,大腿欠損,下腿欠損,足部欠損などの重篤な奇形がみられた.妊娠14,16日処理群には手,足の奇形は成立したが,大腿,下腿の欠損奇形はみられなかった.ついでこれら四肢奇形の発生過程観察のために妊娠15日のラット胎仔を穿刺後5分より15分,30分,11時間,3時間,6時閉,12時間,24時間,以後生まれるまで1日妨に観察した.15分後に後肢足板の指問陥凹部のmarginal blood sinusからs軽度の出血が認められた.この出血は,時間の経過とともにしだいにひろがり3時問後がもっとも著明であった.出血のつよい例では,出血は指間部の問葉組織から足板全体に拡がり,12〜24時問後には足板は出血性壊死におちいり,壊死部分は脱落して胎生末期には先天性四肢切断の像を示した.羊水穿刺による初期変化である四肢末端の出血の成立錘序を知るために,次の実験を追加した.妊娠15日のラットを麻酔開腹後,ただちに子宮の動静脈を結紮し母体より子宮を易咄Lた.易咄した子宮に羊水穿刺をおこない37oC生理食塩水中に移し観察したところ30分後に指間部のmarginalbloodsinusからの出血がみとめられた.また易咄Lた子宮に羊水穿刺を右こない,ただちに子宮を切開して子宮筋の収縮をとり除き,羊膜,卵黄嚢膜に包まれ胎盤をつけた状態で胎仔をとりだし,37Tの生理食塩水中で観察したが,寮制後1時間経過しても出血はみられなかった.これより羊水塚刺後の出血の発生には子宮筋の収縮が重要た役割をもつ事実を知ることができた.妊娠15日の正常たラット胎仔は,大腿骨,下腿骨の原基は既に形成され,足板には軽度の指裂もできている.したがってこの時期の羊水穿刺によって多発する四肢の欠損奇形が四肢原基の無形成あるいは形成不全によるものでないことは明らかである.羊水穿刺後の初潮変化は指間部問葉組織の出血で,この出血の程度によって絞才厄輪から切断までの一連の欠損奇形が成立する過程を観察できた.先天性四肢切断および絞拒輸の成因については古くより議論されているが,未だ結論はえられていない.著者の実験では,ヒトの先天性四肢切断の原因とされている羊膜索や線維索による絞拒,羊膜貫通による絞拠はみられなかった.また羊水穿刺後発生し,四肢切断を招来する出血は指間陥凹部よりはじまっている点から,羊膜による絞拓が出血壊死の原因とは考え難い.
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© 1971 日本先天異常学会
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