日本先天異常学会会報
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頭蓋の再開裂をおこす形態形成機序についての実験的観察
村上 氏廣星野 清井上 稔
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1972 年 12 巻 3 号 p. 157-171

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抄録

実験動物を含む哺乳動物に自然に,または外因によって成立する外脳症はヒトの無脳症の前駆状態と考えられている.無脳症は神経管の閉鎖障害に起因するというのが通説であるが,ヒト胎児,新生児例でも,いったん閉鎖した神経管の再開裂reopening,すなわち,すでに一閉鎖した神経管が二次的に破裂して無脳症ないしその類縁状態を成立させると推定される例もある.かつてわれわれは妊娠8日のWistarラットにvincristineを与え,頭蓋裂で脱出した脳が脳膜で覆われている例をみた.そこで,今回は,前回の所見を確認するとともに,その形態形成機序を観察すべく,前回と同じWistarラットに同じ処理を施し,妊娠11日より20日までの胎生期の個体を観察しなおしたとろ,胎令11〜13日に外部より中脳に雲絮状の翳がみえる例や胎令13日以後の個体で主として中脳頂に小型の噴口状の孔がある例があり,切片として観察したところ主として中脳頂付近に神経上皮の成分によく似た濃染性の核をもつ細胞群の集簇があり,特に神経組織の中から外部に向って破裂状に,また噴出したかのようにみえる所見があり,かような例と中脳風こ噴孔状の孔のある例の問に種々な移行的状態があった.中脳の裂口も大小さまざまで,そのうちには開裂した頭蓋より脳が部分的に反転脱出している例もあった.しかし,そこに神経組織の増殖を証明する像はなかったので,この所見を"神経組織のdisorganization"とよんだ.その後,この所見の再現と検討を目的として,3群のwistarラットの妊娠8日にvincristineの0.2mg/kg,0.225mg/kgおよび0.25mg/kgを腹腔内に注射した.胎生期の個体は胎令11〜20日に観察したところ,胎芽の中脳頂とその付近の部位にはなはだ明瞭な変化があった.変化のもっとも僅少な例では胎令11日に,中脳頂に・小さい粒状の単一の膨出が外部からみることができた.この例では表皮下に球状の細胞塊があった.胎令13日になると外表からみて中脳頂より前方に向ってきわめて明瞭な複雑した繋ができている例があり,それらの例では頭蓋はいまだ破裂にいたってはいないが,その前兆のみられる例から破裂に近い例まで種々の状態があった.それらのうちには脳原基の脳室層(母基細胞層)の成分と思われる濃染した核をもつ組織が頭蓋)の外表にまで移動侵出し,最終的には頭蓋の破裂にいたると思われる例があった.今回の観察では脳室層の構成々分と思われる幼若な神経組織が外表に移動し,頭蓋上に扁平にひろがる傾向があることがみられ,その際しばしばrosette形成を伴ない,時にrosette形成がこの機序の本質であるらしい所見をえた.Rosetteのもつ性格より,この異常組織は増生的な傾向によるものとみられるだろう.今般の所見では脳の異常器質化disorganlzationにrosette形成が伴なわれ,かつ,それがこの異常形態形成機序の重要な役割をしているようである.したがって,無脳症ないし外脳症とよばれる状態にはふたとおりあり,ひとつは従来からいわれている神経管の閉鎖障害に一よる場合と,他のひとつはいったん閉鎖した頭蓋がrosette形成など脳の内部の異常器質化によって二次的に破裂した結果形成される例の存在が推定される.ただし,この場合には頭蓋の開裂状態は神経管の閉鎖障害に.よる例ほどはなはだしくはない.

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© 1972 日本先天異常学会
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