日本先天異常学会会報
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マウスのX線小頭症における脳血管形成異常について
亀山 義郎林 靖星野 清
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1972 年 12 巻 3 号 p. 147-156

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抄録

マウス、ラットの大脳の実験的組織発生異常について、これまで胎生期の一次的発生障害のみ注目され、晩発性におこる脳実質破壊プロセスとその機序の検討が十分なされていない。前報において(Kameyama&Hoshino、1972)、胎児期のX線被曝によるマウス小頭症のうち、大脳外套の組織構築の乱れのつよい胎生13日被曝仔の脳に生後になって血行障害、出血にもとづく脳外套の破壊性病変と非閉塞性水頭症が多発することを報告した。本報ではマウスX線小頭症の大脳外套におこる上述の晩発性血行障害の成立機序を明かにするため胎生13日、15日の胎仔にX線200Rを照射し、出生〜生後2週の被曝仔の墨汁注入による脳血管標本を作製し、大脳外套の血管形成状態、血管網の構築pattemを観察し、皮質構築異常との関連を検討した。無処理の正常マウスの大脳外套には軟膜より脳表面に垂直に貫通し皮質を通過して主として白質に分布する穿通枝と、軟膜より垂直に規則正しい間隔で皮質に入り皮質内で相互に吻合してarcade状の血管網を構成する皮質枝の2種類の血管がみとめられた。X線小頭仔のうち皮質構築異常のつよい胎生13日の被曝仔では、大脳外套の血管発達障害と血管網の構築pattemの異常がつよく、皮質構築の乱れがつよく異所形成の著明な頭頂部では血管網の形成不全、血管の走行・分布の乱れ、穿通静脈の拡大が著明であった。側頭部では血管形成不全は頭頂部と同様であったが、走行・分布の乱れは軽度であった。なお側頭部白質で欝血、出血および組織欠損の好発する脳梁放線の側脳室に近接する部位には、穿通静脈の不規則な拡大とその白質内分枝よりの墨汁の組織内漏出をみる例が多かった。X線小頭仔のうち皮質構築の乱れが軽い胎生15日被曝仔では、頭頂部、側頭部ともに血管網の発育不全はみられたが、血管の分布・走行の乱れはなく、静脈の拡大および墨汁の組織内漏出もほとんどみとめられなかった。これらの所見は大脳外套の血管網構築の乱れが外套神経組織の構築異常にもとづく二次的変化であることを示すとともに、血管網の形成不全の原因として、血管原基自体のX線損傷を示唆する。X線小頭症に晩発性に現われる大脳外套の血行障害性変化は血管網の構築の乱れと血管網の形成不全を基盤として成立するものとみなすことが出来る。

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© 1972 日本先天異常学会
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