日本先天異常学会会報
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横隔膜欠損を伴った先天性心膜欠損症 : 成立機序の検討
Bhagwan Din CHAURASIA
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1973 年 13 巻 4 号 p. 211-219

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抄録
種々の奇形を伴った左右両側の先天性心膜欠損症の症例を報告し、これにもとずいてこの奇形の成立過程における横中隔の役割、および心臓の回旋の役割についての考えを述べる。症例は自然流産胎児で妊娠8ケ月、体重1132gの女児である。外表奇形として無脳症、脊髄裂、腕ヘルニア、SUA、膀胱外反を伴なっていた。解剖すると横隔膜は痕跡化しており、腹腔は下行結腸と巨大尿管に占められ、小腸、結腸の大部分は右胸腔へ脱出していた。右舳は非常に小さかったが左肺はほぼ正常であった。壁側心膜は非常に沖く、右側では部分的矢狽、左側では全天狽の状態にあり、右側の欠損部から右肺がヘルニアとなって左胸腔へ脱出していた。この症例、および文献に言己載されている諸症例を総合すると、先天性心膜欠損症の発生機序を説明しようとする仮説は[○!1}部分的欠損も全欠損もおこること[○!2}全欠損の頻度が部分的欠損の頻度より高いこと[○!3}左側にも右側にもおこること[○!4}左側により多くおこること、および[○!5}合併奇形を伴うことをも、できれば説明可能な仮説でなければならない。この5点にもとづいて諸仮説の妥当性を検討する。「胸心膜ヘルニア」説は異常な肺原基が胸心膜孔を通って心膜腔へ脱出し、そのため胸心膜孔の閉鎖不全をきたし心膜欠損症となると説明する。しかしこの説では全欠損の症例があり、しかも部分的欠損例より多いことの説明はできない。また肺のヘルニアが結果でなくて原因であるとする根拠を欠いている。「血管萎縮」説は左総主静脈の萎縮があまりに早期におこり、同側の胸心膜に欠損をきたすのだと説明する。この説は左側におこり易いことを説明するにはよいかも知れぬが、右側におこる例の説明ができない。また静脈が組織を栄養するという考えはおかしい。「神経腸管残存」説については神経腸管残存は他の奇形となることがわかり、誰も支持していない。左側におこりやすいことの説明もできたい。「体腔発達障害」説は心膜欠損症で腹面ヘルニア、鼠径ヘルニア等を伴う例のあることにもとづいて体腔の発育時期には特に損傷を受けやすい時期があると仮定し、体腔の発達障害が原因であると説明する。また左側におこりやすいのは、肝臓が発育に伴って回旋することによると説明する。この説では心膜欠損症の中には必ずしも体腔の異常を伴わない例のあることや、全欠損例が部分的欠損例より多いことの説明ができない。「外傷」説は大きな外力によって心膜が破れたのだと説明するが、外力を受けた経歴のない例の説明はつかないし、心膜が欠損する説明とはならない。私は「横中隔欠陥」説を唱えた。胸心膜はおもに櫛中隔に山来するものであり、心膜欠損症には横隔膜ヘルニアがよく伴う事実とも合致する。心膜欠損症が左側におこりやすいのは、心臓の回旋のために左側の胸心膜が右側に比してより広くひろげられるからだと説明している。この説によれば部分的欠損も全欠損もおこること、左側に右側より多くおこること等が無理なく説明できる。しかしながら現在のところ、多種多様な合併奇形については十分に説明することができない。
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© 1973 日本先天異常学会
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