日本化学療法学会雑誌
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黄色ブドウ球菌のspa遺伝子解析ならびに薬剤感受性の検討
メチシリン耐性株での特徴と型別分類への応用について
前澤 浩美吉沢 幸夫柴 孝也
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1996 年 44 巻 6 号 p. 409-416

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抄録

黄色ブドウ球菌のなかでも特にメチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (methicillin-resistant Staphylococcus aureus: MRSA) による感染症は, 高齢者やimmunocompromised hostなどの症例に多発することから予後不良なことが多く, 感染症の原因菌の一つとして, 重要視されている。この黄色ブドウ球菌の持つ細胞壁構造因子protein Aは, メチシリン耐性への関連においていくつかの報告がある。1973年にWinbladらが多くのMRSAでは細胞外protein Aに比し細胞内protein Aの減少が著しいと説いており, 1979年にはCohenらもA 676株を用いてメチシリン耐性をもつとprotein Aの含有量が増加すると発表しており, mecA遺伝子 (mec) とprotein A遺伝子 (spa) の関わりについては古くから論議が重ねられている。そこで著者らは, 1993年7月から1994年6月までの1年間の東京慈恵会医科大学附属病院第二内科における外来通院患者19例と入院患者82例の計101例から臨床分離された黄色ブドウ球菌を対象に, polymerase chain reaction (PCR) 法にてメチシリン耐性の有無, protein A・IgG結合ドメイン数 (5, 4, 3, 2, 0) の分類 (PA分類) を行い, この結果よりmec A陽性 (+) と陰性 (-) の各々の株においてのprotein A・IgG結合ドメイン数の分布を検討した。PA5, 4, 3を有した株はmec (+) の40株では, 各々5株, 34株, 1株, mec (-) の61株では各々38株, 21株, 2株認められた。PA2, 0の株はいずれにも認められなかった。これらの結果から, mec (+) の株には, PA4が有意に高率に認められ (p<0.001, X2=22.92), mecspaの関連性を示唆する成績が得られた。次にこの101株で, コアグラーゼ型, ファージ型別分類, 感受性検査を行った。その内訳は, コアグラーゼ型分類では, II型が46株 (45.5%) と高率に認められた。さらにこの中でメチシリン耐性を有し, かつPA4の株は30株で, ファージ型別の内訳では, NT (判定不能) が16株 (53.3%) 認められたが, 残りは, I, I M, I II III, III, IIIM, IIIV, Vに, 各1~5株と多様にわたっていた。薬剤感受性の検討では, mec (-) の株で11種, mec (+) の株で10種のパターンに分類することができた。以上の結果を前記のPA分類と共に総合的に評価し, この101株を54種に分類し得た。また当科における臨床分離のMRSAは, PA4の株の出現頻度が高いことが判明した。今回明らかにしたドメイン数分類は, 感受性検査だけでは分別不可能な株をさらに細分化する方法として利用することにより, 黄色ブドウ球菌感染症の院内感染対策の一手段として有用であると考えられた。

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