日本化学療法学会雑誌
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化学療法の黎明期
北里 一郎
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2003 年 51 巻 10 号 p. 615-620

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抄録

化学療法の原点は原因療法の推進者であったR.Kochとその門下生, そしてL.Pasteurらによって築かれた。R.Kochの門下生の北里柴三郎は, 破傷風の抗毒素を用いて免疫血清療法を確立した。同じく門下生のP.Ehrlichは, 秦佐八郎とともにサルバルサンを発見し化学療法に道を開いた。また, A. Flemingによるペニシリンの発見, H.Florey, E.Chainらによるいわゆる「ペニシリンの再発見」が化学療法, 特に感染症治療の飛躍的進歩につながるきっかけをつくったことはいうまでもない。日本でも梅澤濱夫らによるカナマイシンの発見を契機として多くの国産抗菌薬が相次いで開発された。特にニューキノロン系薬の開発は日本が中心であったし, 慢性肺疾患DPBへのマクロライド系薬の適応拡大も大きな業績で医療杜会に大きく貢献した。一方, MRSA, PRSP, VRE, 多剤耐性緑膿菌など次々と現れる薬剤耐性菌の拡大が深刻な問題となっており, 抗菌薬適正使用が叫ばれ院内感染対策が重要な課題となっている。また薬剤耐性菌のみでなく, 時としてSARSなど新興感染症やバイオテロの脅威にも対処しなければならない。このように複雑化してきた感染症に対し, いまこそ化学療法の原点に立ち返り, 当時にはなかった新しい遺伝子探索手段や新規病原因子の解析などを駆使して新しい化学療法を開発すべき時期にきている。

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