日本化学療法学会雑誌
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化膿性髄膜炎例から分離されたStreptococcus pneumoniaeの疫学解析
1993年から2002年の分離株について
千葉 菜穂子長谷川 恵子小林 玲子鈴木 悦子岩田 敏砂川 慶介生方 公子化膿性髄膜炎・全国サーベイランス研究班
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2003 年 51 巻 9 号 p. 551-560

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抄録

1993年から2002年の10年間に化膿性髄膜炎例から分離された肺炎球菌286株と, 髄液のPCRを直接実施し起炎菌が肺炎球菌であると診断された18例の合計304例を解析対象とした。その内訳は小児が199例, 成人が105例であった,) 分離株に対する注射用抗菌薬の感受性, ペニシリン結合蛋白 (PBPs) の遺伝子変異の有無, および莢膜血清型について検討した。PCRによって解析された.pbp 1a, pbp 2x, およびpbp 2b遺伝子の変異と, 基準薬のpenicillin Gに対するMIC90との関係から, 被験菌は,(i) 3遺伝子に変異をもたないPSSP (23.1%, MIC90: 0.031μg/mL),(ii) pbp 2x単独変異 (19.9%, 0.063μg/mL),(iii) pbp 2b単独変異 (0.7%, 0.125μg/mL),(iv) pbp 2x+2b交異 (5.9%, 0.25μg/mL),(v) pbp1a+2x変異 (10.5%, 0.25μg/mL),(vi) 3遺伝子に変異を認める株のPRSP (39.9%, 2μg/mL) に識別された。(ii) ~ (v) の株はPISPとした。全国サーベイランス研究とそれ以前に分離された菌株とを比較すると, 過去3年間の分離株ではPRSP, PbP1a+2x, およびpbp 2x変異株の割合が有意に高くなっていた。PRSPによる発症率は, 成人 (27.1%) に比べ, 小児 (45.3%) において高かった, PRSPに対する抗菌力はpanipenemのMIC90が0.125μg/mLともっとも優れ, 次いでbiapenem (0.25μg/mL), meropenemとvancomycin (0.5μg/mL), cefbtaxime (1μg/mL), ceftriaxone (2μg/mL), ampicillin (4μg/mL), cefbtiam (8μg/mL) の順であった。小児由来の肺炎球菌における血清型は, 6B (25.4%), 19F (19.0%), 23F (13.8%), 6A (10.1%), および14型 (7.9%) の順に多く, 成人では23F (16.5%), 22 (12.4%), 3 (11.3%), 6B (10.3%), 19F (9.3%) および10と14型 (6.2%) が多かった。両者間の血清型には明らかな違いが認められた (x2=56.9656, p=0.0000 (**))。PRSPは小児山来株に多く認められる血清型に多かった。過去3年間の小児起炎菌に対する7価と11価の肺炎球菌conjugate vaccineのカバー率は, それぞれ76.7%と81.7%であった。しかし, 成人山来株に対するカバー率は, 43.8%と56.3%と低かった。上述した肺炎球菌による髄膜炎例の成績は, vaccineの導人と全国規模の正確なサーベイランスの必要性を強く示している。

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