抄録
(1) 重量200kgの土橇(抵抗約70kg)を実際の作業に使用する方式で牽引せしめ,前報と同様な分析を試み,自由常歩と比較した。
(2) 自由常歩で各歩期に対応して軌跡に現れた特徴は作業時にも認められるが,体各部に附した標点,従つて体の部分的な動作に特異な変化が現れる。負荷を牽くためにとる作業態勢は働く際の最も動き易い体各部の綜合結果の形であると考えられ,又この態勢を保持するために動作にある程度の修飾をうけているとみられる。
(3) 躯幹軸心は牽引力が斜に働くと考えられる馬では
自由常歩時の特徴が消失して頭尾と背の変化の位相がずれ,頭頸の運動が大きくなり,後躯は遙かに変動が小さくなる。後躯を深く踏み込み,背を張つた作業態勢によるものと考えられる。牛では輓曳作業でも負荷の垂直に働く要素が大きいために軸心の上下運動が強調され,馬の自由常歩に現れた特徴に類似する変化が現れる。
(4) 前肢諸標点の波動が著しく強調され,特に馬では離地後の挙揚と伸展の変化,負重,蹴返しのための沈下が明瞭である。牛では前肢の挙揚の動作が大きく,自由常歩より遙かに短節硬直になる。
(5) 後肢は推進の働きが明瞭となり,上下えの運動はむしろ減少し,負重或は推進時の肢の固定のために歩期に対応した変動が明になる。特に牛では上体の上下運動が著明であるに拘らず,肢下部の諸部位は変化が少く,負重や推進による関節の浮動が著しい。
(6) 負荷の牽引によつて家畜は一種の作業態勢をとり,これを作業の間中保持することによつて牽引力を有利に働かせようとし,このために運動に幾分の制約ができると考えられる。躯幹前部及び前肢の上下運動が著しくなり,後躯がむしろ軌跡の上で安定してくるのは体重又は重心の移動を前躯の大きな運動によつて容易にし,後肢を専ら荷重の推進のために働かせるためであろうと推測される。
輓曳運動に関する実験に就ては本教室研究生望月良夫氏,同富永聰氏の助力を得た。附記して感謝の意を表する。
なお本研究は文部省科学試験研究補助費により行つたものである。