日本畜産学会報
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総説
  • 志村(野崎) ののこ, 加藤 博美, 新村 毅
    2024 年 95 巻 3 号 p. 157-184
    発行日: 2024/08/25
    公開日: 2024/10/01
    ジャーナル 認証あり
    電子付録

    近年,動物福祉(Animal welfare)は世界的な潮流となっており,中でも採卵鶏の飼育システムは大きな課題となっている.本総説は,採卵鶏の飼育システムにおける福祉・経済性・環境影響を概説したものであり,福祉は家畜および農業者の福祉,経済性は畜産物の生産性と市場での小売価格という観点から長短所を明瞭化した.いずれの飼育システムにも長短所が存在し,完全なシステムは存在しない.特に,ケージシステムとケージフリーシステム間で評価が異なる点として,正常行動発現の自由と経済性および農業者福祉があげられる.本総説では,これらの相反する評価について,実測値を用いてその関係性を描写し,家畜福祉と経済性もしくは農業者福祉が両立しうる改善点をプロットした.家畜福祉に配慮した持続可能な飼育システム構築のためには,研究の推進と科学的知見をさらに集積し,それらを基盤にした方向性を議論することが重要である.

  • 津上 優作
    2024 年 95 巻 3 号 p. 185-192
    発行日: 2024/08/25
    公開日: 2024/10/01
    ジャーナル 認証あり

    泌乳期の乳産生は乳腺上皮細胞によって行われる.乳腺上皮細胞は,乳成分の材料であるグルコースやアミノ酸を側部細胞膜および基底部細胞膜に存在する輸送体を介して細胞内に取り込み,細胞内で乳成分を合成し,頂端部細胞膜から細胞外へ分泌している.また,乳腺上皮細胞の細胞間隙に存在するタイトジャンクション(TJ)は,乳成分と血液成分の漏出を防ぐとともに,細胞膜を頂端部側と側底部側に区分けし,乳腺上皮細胞に細胞極性を付与している.本稿では,生体同様に乳成分産生能力とTJ形成を同時に兼ね備えたウシ乳腺上皮細胞の乳分泌モデルの作製とともに,乳房炎原因菌の毒素であるリポ多糖(LPS)・リポタイコ酸(LTA)やポリフェノールの1つであるイソフラボンを用いた乳分泌モデルの有用性の検証や応用について著者の一連の成果をもとに紹介していく.

一般論文(原著)
  • 山本 直樹, 山崎 武志, 西浦 明子, 萩谷 功一, 阿部 隼人, 中堀 祐香, 増田 豊
    2024 年 95 巻 3 号 p. 193-200
    発行日: 2024/08/25
    公開日: 2024/10/01
    ジャーナル 認証あり
    電子付録

    ホルスタインにおける乳中脂肪酸組成の泌乳曲線の形状と最適な泌乳曲線関数について調査した.北海道で集積された牛群検定記録のうち,生乳100 gあたりのデノボ脂肪酸の割合(%)であるデノボMilk(DnM),全脂肪酸に対するデノボ脂肪酸およびプレフォーム脂肪酸の割合(%)であるデノボFA(DnF)およびプレフォームFA(PrF)を分析に供した.DnMに対して4次までの多項式を,DnFおよびPrFに対して2次までの多項式にWilminkの指数項を加えた関数を当てはめた.モデルの適合性は,平均誤差と平均平方誤差で評価した.DnMは泌乳日数の経過とともにわずかに上昇した.DnFは126日目まで上昇したが,その後はわずかに低下した.PrFは145日目まで低下し,その後,わずかに上昇した.最適な泌乳曲線関数は,DnMが2次の多項式,DnFおよびPrFが1次のWilmink関数であった.各産次の分娩月および分娩時月齢ごとの泌乳曲線の形状は,全個体から得た平均泌乳曲線と類似した.

  • 真下 陸, 鈴木 奏渡, 草場 信之, 川島 千帆
    2024 年 95 巻 3 号 p. 201-209
    発行日: 2024/08/25
    公開日: 2024/10/01
    ジャーナル 認証あり

    分娩前3週間の未経産乳牛23頭のルーメンフィルスコア(RFS),ルーメンボリューム(RV),ルーメンコンテンツ(RC)を給餌前後に評価し,難産や分娩後の疾病発生との関係を調査した.安産牛(分娩難易度1;8頭)は難産牛(同3以上;13頭)よりも分娩0.5週前の給餌前RVと2.0週前の給餌後RFSが高かった(P<0.05).ケトーシスや子宮疾患の罹患牛(各6頭,併発牛4頭)は健常牛(15頭)よりも給餌前RFS(分娩2.0週から0.5週前)とRC(分娩2.0週,1.0週前)が低く,給餌前後のRVは分娩1.0週,0.5週前で低かった(P<0.05).また罹患牛の給餌前RFSは3.0以下だった.よって,分娩前3週間に難産牛は給餌後RFSと給餌前RVの低下,疾病発生牛は給餌前RFSとRC,給餌前後RVの低下から予測可能であり,これらの評価法は難産や分娩後の疾病発生の予防に役立つことが示された.

  • 玉川 雄太, 川村 健介, 口田 圭吾
    2024 年 95 巻 3 号 p. 211-221
    発行日: 2024/08/25
    公開日: 2024/10/01
    ジャーナル 認証あり

    ランダムフォレスト(RF)を使用して画像解析および枝肉格付形質から枝肉単価を予測した.供試牛は2015年から2019年(DS2015)および2022年(DS2022)に北海道の枝肉市場に出荷された黒毛和種13,046頭を使用した.枝肉単価の予測における特徴量の重要度は,肉質,相場,歩留の順に高かった.画像解析形質からは胸最長筋・僧帽筋の面積および脂肪面積割合が枝肉単価に影響していた.予測精度はR2値で0.86であり,RFは従来の回帰分析よりも高い精度で枝肉単価を予測できることが示唆された.しかしながら,瑕疵の程度の大きな枝肉やバランスの悪い枝肉については,高い精度で枝肉単価を予測することは難しいことが示唆された.さらに,DS2015で作成したモデルを用いてDS2022の枝肉単価を予測したところ,精度が低下し,枝肉単価の決定傾向が年代で異なっている可能性が示唆された.

技術報告
  • 津田 治敏, 髙橋 彩花
    2024 年 95 巻 3 号 p. 223-228
    発行日: 2024/08/25
    公開日: 2024/10/01
    ジャーナル 認証あり

    A2ミルクとは牛乳中のβ-カゼインがA2型のものしか存在しないものとされる.しかしながら,A2ミルクの食品表示基準は国内に存在しないため,A2型以外が含まれていても消費者にはわからない.そこで,市販A2ミルクに含まれるβ-カゼイン型の判別を行った.判別にはHPLC法を用いた.材料として,国内で市販されているA2ミルクの表示がある牛乳4種類およびヨーグルトタイプの乳製品1種類,市販一般牛乳3種類および青森県内の農家から得た生乳1種類を用いた.その結果,A2ミルク5種のうち4種からはA2-カゼインのみが検出された.また,一般牛乳および生乳では,A1-カゼインとA2-カゼインの両方が検出された.

  • 孟 彤, 松山 裕城, 片平 光彦, 浦川 修司, 堀口 健一
    2024 年 95 巻 3 号 p. 229-237
    発行日: 2024/08/25
    公開日: 2024/10/01
    ジャーナル 認証あり

    肉用鶏の摂取様姿勢(摂食様姿勢および飲水様姿勢)を検出する人工知能(AI)を用いた肉用鶏の飼料および水の摂取量推定方法を検討した.ディープラーニングによる物体検出を用いた摂取様姿勢検出用AIを作成し,AIを用いて検出された摂食様姿勢および飲水様姿勢の回数と対応した飼料および水の摂取量の関係性について,単回帰分析により解析して相関係数から判断した.また,学習データセット用静止画の内容がAIの検出精度と摂取量推定に与える影響を検討した.その結果,相関係数はそれぞれ0.92(P<0.01),0.85(P<0.01)となり,摂取様姿勢検出用AIを用いた飼料および水の摂取量推定が可能であった.また,学習データセット用静止画のうち,摂取様姿勢に似た摂取様姿勢ではない姿勢の増加により,AIの検出精度が上がること,AIから検出された摂取様姿勢の回数と対応した飼料および水の摂取量の相関性が高くなることを確認した.

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