ウシの授精適期(発情開始から6-24時間後)予測ツールを開発するため,乗駕許容行動(ST)で押し出されたインクが濾紙製インジケーターに滲出する距離を基に,発情開始からの経過時間を予測可能なツールを作製し,性能を検討した.時間予測モデルは,インジケーター滲出距離および日平均気温を説明変数とし,Lucas-Washburn式およびAndrade式を用いて構築した.各係数は黒毛和種雌牛6頭の観測データから最小二乗法により推定した.モデルの検証には黒毛和種雌牛のべ33頭を供試し,初回ST日時,発情検知率,作動開始からの経過時間に伴うインジケーター滲出距離,人工授精実施日時,受胎の有無を検討した.初回STから16時間後のインジケーター滲出距離の平均絶対誤差は20.7 mm, 発情検知率は87.9%,受胎率は79.2%であり,本ツールと予測モデルの併用により高い受胎率を期待できることが示された.
本稿は,酪農法人の財務諸表の作成実態を解明し,会計上の補正が企業価値評価に及ぼす影響を検証した.専門家および酪農法人への調査の結果,製造原価報告書の未作成や補助金処理の不統一といった課題が確認され,農業会計指針の活用も限定的であった.経営継承の現場では,負債の状況や資産の評価額に加え,土地利用の持続可能性や地域社会との信頼関係が重視されている.また,事例分析では,補助金を営業利益段階に算入するなどの補正により,評価額に数億円単位の差異が生じることが示された.多くの中小企業M&Aで重視される利益は歪められやすく,実態に即した財務諸表の構築が不可欠である.円滑な経営継承には,酪農の構造的特性を反映した情報の標準化と,情報の非対称性を解消する評価スキームの確立が要請されるといえる.
黒毛和種においてトウモロコシサイレージ(CS)を用いたTMR給与がルーメン内リポポリサッカライド(LPS)濃度に及ぼす影響を検討し,あわせて,本給与体系の実用的価値を包括的に評価した.ルーメンカニューレを装着した黒毛和種去勢牛6頭を用い,CS混合割合の異なる2種類のTMR給与区および慣行的な分離給与区を設定し,3×3ラテン方格法による消化試験を実施した.ルーメン内容液pHおよび揮発性脂肪酸濃度に処理区間差は認められなかったが,TMR給与区では分離給与区と比較してルーメン内LPS濃度は一貫して低値を示した.消化率,窒素出納,血液性状などに顕著な差は認められず,CSを用いたTMR給与は全身的な代謝に大きな影響を及ぼさなかった.以上の結果から,CSを用いたTMR給与は,過度なルーメン内容液pHの低下を伴うことなくルーメン内LPS濃度を低値に推移させる実用的な給与体系であることが示された.