日本畜産学会報
Online ISSN : 1880-8255
Print ISSN : 1346-907X
ISSN-L : 1880-8255
最新号
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
総説
  • 大内 義光
    2025 年 96 巻 1 号 p. 1-5
    発行日: 2025/02/25
    公開日: 2025/03/27
    ジャーナル 認証あり

    畜産動物のエネルギー代謝や体温調節に関連する細胞および分子メカニズムを理解することは,畜産動物に経済的かつ健全な成長を促すために必要不可欠である.脱共役タンパク質(UCP)はミトコンドリア内で酸化的リン酸化を脱共役するタンパク質である.すなわちプロトン濃度勾配を解消させることでATP合成に向けられていたエネルギーを切り離し,熱産生をもたらす働きをするタンパク質である.哺乳類においては5つのサブタイプが存在し,エネルギーの恒常性,食餌摂取や体温調節と密接な関係性がある.鳥類ではav-UCPが存在する.しかし鳥類のav-UCPに関する研究は哺乳類のものと比較すると十分ではなく不明な点が多い.本稿ではav-UCPの鳥類や家禽での役割を紹介し,哺乳類と比較する.またav-UCP遺伝子一塩基多型に関する研究を紹介する.

一般論文(原著)
  • 佐々木 整輝, 小林 正人, 平井 智美, 飯田 文子
    2025 年 96 巻 1 号 p. 7-18
    発行日: 2025/02/25
    公開日: 2025/03/27
    ジャーナル 認証あり
    電子付録

    黒毛和種は脂肪交雑の改良により,輸入牛肉との差別化に成功した.しかしその結果,枝肉成績は高位平準化で差別化が困難となり,新たな指標が求められている.脂肪酸組成の成分値は食味に係る指標として活用が進んでいるが,その他の成分と食味の関係は現時点で不明確である.分析型官能評価は食味性の客観的指標となりうるが,多検体処理には向かない.本研究では,多検体処理可能な成分分析値から食味特性を予測する手法を開発した.成分分析値から遺伝的アルゴリズムとPLS回帰分析で官能評価を予測する式を作成し,決定係数0.6~0.8の推定式を構築した.また12項目の官能評価を主成分分析した結果,第1~3主成分が全情報の93%以上を含むことを示し,それぞれを「食感と全体評価」,「味」,「におい」として解釈する指標とした.本研究の成果により,ブランド牛の食味の特徴づけや食味に基づいた改良に貢献できると期待される.

  • 尾花 尚明, 吉田 有里, 本間 文佳, 松本 和典, 入江 正和
    2025 年 96 巻 1 号 p. 19-30
    発行日: 2025/02/25
    公開日: 2025/03/27
    ジャーナル 認証あり

    本研究目的は黒毛和種(以下,黒毛)と豪州産Wagyuの肉質の違いを明らかにすることであった.黒毛とWagyu各18頭から胸最長筋と筋間脂肪を採取し,物理化学分析と分析型官能評価を実施した.筋肉内脂肪含量は黒毛で49.8%,Wagyuで23.2%と大きな差があった.黒毛はWagyuより肉の加熱損失,せん断力価,多くの遊離アミノ酸と核酸関連物質含量が低く,筋肉内脂肪中のオレイン酸と一価不飽和脂肪酸各含量がやや高く,筋間脂肪の融点が4°C低かった.Wagyuより黒毛の方が肉のイノシン酸指数は低かったが,グルタミン酸指数が高く,オレイン酸と一価不飽和脂肪酸の各指数が2倍以上高かった.黒毛の牛肉の方がやわらかく多汁性があり,脂っぽい香り,甘い香り,和牛肉らしい香りが強く,総合評価も高かった.以上から黒毛はWagyuに比べ筋肉内脂肪含量が大変高く,脂肪質も少し異なり,官能特性にも差があることがわかった.

技術報告
  • 家木 一, 寺井 智子, 畑野 幹人, 山田 大輝, 戸田 克史
    2025 年 96 巻 1 号 p. 31-36
    発行日: 2025/02/25
    公開日: 2025/03/27
    ジャーナル 認証あり

    サイレージ化した規格外サトイモ(TS)について,泌乳牛での嗜好性を調べるとともに(試験1),乾乳牛による消化試験を行い成分消化率と可消化養分総量を測定した(試験2).TSの化学組成(乾物中)は,粗タンパク質含量が16.9%で代替対象としたフスマに近く,非繊維性炭水化物含量がフスマよりも高い50.6%であった.嗜好性試験において,TSの配合割合(乾物比)を25%ずつ高めた4種の試験飼料を泌乳牛12頭に給与したところ,75%以上のTS配合により乾物摂取量が低下した(P<0.05).また,基礎飼料の乾物比10%をTSで代替して行った乾乳牛3頭による消化試験の結果から,TSの乾物中可消化養分総量は75.1%と推定された.以上のことから,規格外サトイモは乳牛の嗜好性に配慮した適正な配合により有用な飼料原料になると評価した.

  • 林崎 菜月, 佐藤 朱嶺, 津田 治敏
    2025 年 96 巻 1 号 p. 37-43
    発行日: 2025/02/25
    公開日: 2025/03/27
    ジャーナル 認証あり

    本研究では,グルコースを添加したカッテージチーズにおける食中毒細菌の挙動を調べた.酸・レンネット法によりpHの異なるカッテージチーズを製造し,チーズにグルコースおよび食中毒細菌を接種したのち冷蔵保存し,菌数を経時的に168時間目まで測定した.食中毒細菌にはListeria monocytogenesStaphylococcus aureus subsp. aureusおよびEscherichia coliの3種類を用いた.その結果, L. monocytogenesおよびE. coliは,いずれのpHのチーズにおいてもグルコースの添加による増殖促進効果は見られなかったがS. aureus subsp. aureus は増殖促進効果が見られた.このことから,カッテージチーズへのグルコースの添加は,食中毒細菌の種類によっては食中毒リスクが上昇する危険性があることが示唆された.

資料
  • 広岡 博之
    2025 年 96 巻 1 号 p. 45-47
    発行日: 2025/02/25
    公開日: 2025/03/27
    ジャーナル 認証あり

    和牛(黒毛和種牛,褐毛和種牛,日本短角種牛,無角和種牛の総称)は,近年,世界的に注目され,特に黒毛和種牛は世界に他に類を見ない霜降り肉生産能力を有し,またおいしさに関係するオレイン酸含有割合が高いことが知られている.今後のわが国の農業を考えるうえで,この比類なき霜降り肉生産能力を有する黒毛和種牛は「日本の宝」と呼ぶにふさわしいものである.本シンポジウムでは「日本の畜産研究は,世界に冠たる和牛生産をいかに実現したのか」をテーマとして黒毛和種の品種特性の解明と遺伝的能力評価の軌跡,和牛の改良を支えた最先端繁殖技術,ビタミンAコントロールによる霜降り牛肉生産,和牛肉のおいしさに関する研究成果などについて議論した.本稿ではその前段として,なぜ和牛は世界で他に類を見ない脂肪交雑生産能力を獲得することができたかについて筆者の私見を述べることにする.

  • 祝前 博明
    2025 年 96 巻 1 号 p. 49-51
    発行日: 2025/02/25
    公開日: 2025/03/27
    ジャーナル 認証あり

    黒毛和種は,1950年代の後半から肉専用種としての改良が図られ,現在では世界的ブランド和牛となっている.本稿では,1970年代と2000年代の初めに実施された外貌審査の科学的な検証,1980年頃からの血統情報を利用した種畜の遺伝的評価の軌跡,今日における大量のDNAマーカーの情報を利用したゲノミック評価などについて略述した.また,今後,期待される育種改良の方向性について言及した.

  • 武田 久美子
    2025 年 96 巻 1 号 p. 53-57
    発行日: 2025/02/25
    公開日: 2025/03/27
    ジャーナル 認証あり

    昭和25年に家畜改良増殖法が制定され,和牛を肉専用種として改良する事業が展開された.この事業の推進に大きく貢献したのが凍結精液を用いた人工授精技術であり,優良種雄牛の精液が全国に流通することで和牛の育種改良は飛躍的に加速した.また,胚移植技術は,雌側からの育種改良や乳牛を母胎とする和牛生産を可能にした.胚や受精卵の凍結保存技術の開発により長期保管と長距離輸送が可能になり,体外受精技術の導入により,より多くの優良胚生産と利用が可能になった.胚の性判別や精子の性選別技術は希望する性の家畜を得るための技術として実用化された.一方,体細胞核移植技術は産子生産率が低いなど問題が残り実用化には至っていない.今後は,未利用卵子の体外成熟培養技術や,凍結乾燥による精子保存技術,iPS細胞など多能性を維持する細胞株の利用,ゲノム編集など,和牛生産への活用を視野に入れた技術開発が期待される.

  • 岡 章生
    2025 年 96 巻 1 号 p. 59-62
    発行日: 2025/02/25
    公開日: 2025/03/27
    ジャーナル 認証あり

    黒毛和種肥育牛の産肉性に対するビタミンAの影響が研究され,肥育中期にビタミンAを制限給与すると脂肪交雑が高くなることが明らかとなった.また,ビタミンAを多量に投与すると増体量が大きくなった.ビタミンAの増体量への影響には甲状腺ホルモン,インスリン様成長因子—1が関与し,脂肪交雑への作用には脂肪細胞の分化と過形成が関与していると考えられた.これらの研究成果をもとに黒毛和種肥育牛の肉質を向上させる飼養方法の一つとしてビタミンAコントロール技術が開発された.海外でも肉用牛でのビタミンAの研究が盛んに行われており,効果はそれほど大きくないもののビタミンA制限により脂肪交雑が向上している.また,出生時にビタミンAを投与すると脂肪交雑が上昇したとの報告があることから,子牛から肥育終了までの効果的なビタミンA給与方法を確立する必要があると考える.

  • 入江 正和
    2025 年 96 巻 1 号 p. 63-65
    発行日: 2025/02/25
    公開日: 2025/03/27
    ジャーナル 認証あり

    おいしさはヒトの感覚で,食味性は肉に存在するおいしさを与える要因である.食味性から脂肪交雑の多い和牛肉のおいしさ要因を概説する.和牛肉がおいしいとされるのは,見栄えが良く,やわらかく,多汁性に富み,風味が良いと評価されるからである.明るい食卓に皿に盛られた細かい脂肪交雑の入ったスライス肉は日本人の視覚を刺激する.長期肥育にも関わらず和牛肉がやわらかい理由は,軟質な筋肉内脂肪が筋肉組織や結合組織に細かく入り込み,それら物性を脆弱化させているためである.和牛の脂肪はオレイン酸などの一価不飽和脂肪酸が多く,融点が低く,食感に滑らかさを与え,多汁性の高さにも影響する.風味では,遊離オレイン酸などが脂肪味となり,味覚を刺激する.遊離脂肪酸はさらに変化し,ラクトンなどの匂い物質となり,嗅覚に良好な香りをもたらす.

  • 小川 伸一郎, 吉田 悠太, 渡邊 源哉
    2025 年 96 巻 1 号 p. 67-70
    発行日: 2025/02/25
    公開日: 2025/03/27
    ジャーナル 認証あり

    日本畜産学会若手企画委員会は,畜産に関わる研究者間のネットワーク醸成ならびに若手研究者や大学(院)生におけるキャリアパス構築に資することを目指し,運営活動を展開してきている.本稿では,若手企画委員会主催のもと日本畜産学会第132回大会@灼熱の京都大学の会期中に開催された第27回若手企画シンポジウム「『データの洪水』を乗り越えるすべ ~オミクス解析の観点から~」について簡潔に紹介する.

feedback
Top