日本畜産学会報
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口之島野生化牛の行動
佐藤 衆介
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1991 年 62 巻 4 号 p. 390-397

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抄録

鹿児島県口之島に生息する野生化牛成雌8頭の行動を,同島の黒毛和種放牧牛成雌2頭の行動と比較し,その特徴を調査した.1頭ずつ追跡し,維持行動は1分ごとに,社会行動は出現する全ての行動を記録した.野生化牛を56.25時間,家畜牛を27.5時間ずつ観察した.摂食時間帯は家畜牛では早朝と夕方に集中する2峰性であったのに対し,野生化牛では日中にも摂食がみられ,3峰性であった.その違いは,野生化牛の生息地を優占する林内の熱環境の快適性および下草の豊富な林地の存在に起因すると考えられた.家畜牛と野生化牛の時間配分は有意に異なり,野生化牛では摂食や移動および哺乳時間が少なく,横臥や反すうが多くなった.それは家畜牛の高増体量への選抜の結果と考えられた.飲水はきわめて少なく全観察時間の0.03%しか占めず,生息地内の湧水池および湧水量の少なさへの適応と考えられた.野生化牛の摂食植物は林地の下草が中心で,枝葉摂食は6%に過ぎず,家畜牛の摂食習性との違いは認められなかった.しかし,短時間ではあるが腐食化した倒木や白化した骨の摂食もみられ,野生化牛では微量要素の欠乏による摂食習性の変化も示唆された.行動域は年次や季節を問わず変化なく,しかも狭く,生息地の牧養力の長期安定性が示唆された.社会行動頻度は家畜牛の23%でしかなく,出現する社会行動も大きく異なった.野生化牛では集合行動が59%を占め,次いで攻撃行動の30%という分布に対し,家畜牛では逆に,攻撃行動が67%を占め,集合行動は23%となった.社会行動頻度の違いは,野生化牛の低密度および行動域共有群の構成員の安定性に由来すると考えられた.

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