日本畜産学会報
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Roll hedgeの損益分析による畜産生産者の国内鶏卵•豚肉先物市場活用に関する検討
賀来 康一
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1995 年 66 巻 7 号 p. 618-629

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抄録

畜産生産者の,現在設立の準備が進行している国内鶏卵•豚肉先物市場活用に関する検討を実施した.1993年現在,飼養頭羽数について採卵場の約60%,豚の約35%が農家以外の生産者によって飼養され,鶏卵•豚肉に関する生産主体は,農家から企業への移行過程にあり,生産者がヘッジャー(リスク削減の手段を取る人)として先物市場を活用する前提条件を満たしつつある.本稿ではまず,1983年から1993年までのシカゴ•マーカンタイル取引所(CME)上場畜産物先物3商品(Live Hog,Frozen Pork Bellies, Feeder Cattle)および1988年から1993年までの国内先物市場上場10商品(小豆,米国産大豆,トウモロコシ,粗糖,乾繭,生糸,金,銀,白金,ゴム),さらに「農村物価賃金統計」による国内豚肉(肥育豚生体10kg)•鶏卵(M1級,10kg)の値動きデータを使用して,期間1年,6ヵ月,1ヵ月の価格に関する変化率を比較した.その結果,鶏卵•豚肉の価格変化率は他の先物商品と比較して,ヘッジ(リスクを他へ移転すること)を必要とする水準にあることが明らかとなった.国内先物市場上場10商品の,順ザヤ(当限価格よりも期先価格が高い状態)または同ザヤ(当限価格と期先価格が等しい状態)期間の調査期間に占める比率と,発会ごとに売買最低単位である1枚を売り,納会ごとに売り契約を乗り換えるRoll hedge(生産者にとって,長期間にわたる大量の生産物の販売価格を,満期が個々に異なる一連の先物契約を利用してヘッジする方法)による損益の関係はr2=0.6200 (rは相関係数)であり,相関が有意に認められた(p<0.01).同様にCME畜産上場3商品のRoll hedgeとの関係もr2=0.9999となり有意な相関が認あられた(p<0.01).先物商品のうちStrorables(在庫可能商品)は順ザヤまたは同ザヤ期間が逆ザヤ(当限価格が期先価格よりも高い状態)期間よりも長い商品が多く,順ザヤまたは同ザヤ期間が長いほど売り方が有利であることが明らかとなった.また,国内先物市場10商品に関するRoll hedgeによる損益と実施年数から,Storablesに関する長期間のRoll hedgeは有利である傾向が示唆された.いっぽう,Nonstorables(在庫不能商品)は,逆ザヤ期間が長く,長期間のRoll hedgeは不利である傾向が示唆された.現在検討中の畜産物価格指数はNonstorablesと考えられるので,畜産生産者が先物市場を経営の安定化を目的として活用するには,売りヘッジを生産畜産物の範囲内にとどめ,ヘッジャーとして生産物の売却価格の将来的な固定を図るべきであり,オーバーヘッジ(生産者にとって,生産販売予定量以上を先物市場において売り約定すること)はリスクが大きい.いっぽう,畜産物先物市場を収益拡大の場として活用するにはストラドル(1つの先物契約を購入すると同時に,もう1つの先物契約を売却し,その価格の連関の変化から利益を得ようとする取引)等の技術が必要となる.

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