抄録
1. 豚體各骨の組成及ゼラチン生成量を比較したり。
2. 先づ骨の全量を調査するに豚全身中8.2~8.4%なり。此の中重量の最も大なるは頭骨にして骨全量の20~24%を占む。之に次で大なるは肋骨(10%)なり。更に之に次ぐは股骨,胸椎,上膊骨,頸椎,腰椎,踝前骨(踝骨及趾骨を含む),骨盤の順なり。之等は骨全量の5~8%を占む。他の骨は各々5%以下となる。尚一個の骨として重量大なるは股骨,上膊骨及肩胛骨とす。
3. 豚骨の水分含量は22~62%の範圍なり。水分最も多きは肋軟骨(56~62%)にして之に次ぐは尾椎及胸骨(40~45%)なり。水分の最も少きは前肢及後肢を形成する各骨(平均25%)なり。(尚水分少き骨は灰分多く蛋白少き傾向を有す。)
4. 豚骨の脂肪含量は無水物中16~38%の範圍なり。脂肪の最も多きは肋軟骨及薦骨(38%)にして最も少きは頭骨(16%)なり。其他の骨はその中間に存し平均20~30%とす。
5. 豚骨の蛋白全量は無水物中21~51%の範圍なり。蛋白の最も多きは肋軟骨(51%)にして最も少きは上膊骨(21%)及股骨(24%)なり。其他の骨は其の中間に存し28~35%とす。
6. 豚骨の粗灰分含量は無水物中10~57%の範圍なり。粗灰分の最も多きは頭骨(57%)にして最も少きは肋軟骨(10%)なり。此の兩極端を除けば他の骨は33~50%の範圍とす。一般に脊柱を形成する各骨は比較的粗灰分少く,前肢及後肢を形成する各骨は灰分多し。又興味ある事は脊柱を形成する各骨は頭骨を遠ざかるに從つて順次灰分含量を減ずることなり。
7. 各骨の無脂肪無水物中に就て蛋白質と粗灰分の比率を求むれば其の比率は1:1.2~1:2.2の範圍となる。此の中頭骨,上肢骨(上踝骨,橈骨尺骨)及下肢骨(股骨,脛骨腓骨)はその比率大にして1:2.1附近なり。之に反して脊柱骨(主として頸椎,胸椎,腰椎,薦骨)はその比率小にして1:1.3内外なり。
8. 各骨の灰分中P:Caの比率を調査するに各骨共極めて近似する關係を示す。即ちP:Ca 1:2.1~1:2.3にして平均1:2.2となる。粗灰分中Pの含量は平均17.1%,Caの含量は38.3%なり。
9. 各骨を攝氏100°Cにて5時間加熱し抽出せらるゝゼラチンの絶對量を調査するに骨の無水物中5~29%の範圍なり。ゼラチン生成量最も多きは肋軟骨(29%)にして最も少きは上膊骨及股骨(5%)なり。此の兩極端を除けば10~15%を示せり。肋軟骨に次でゼラチン生成量多きものは腕前骨(腕骨及指骨を含む),尾椎,胸骨,踝前骨(踝骨及趾骨を含む)等なり。
10. ゼラチン生成量を骨の含有蛋白100分中に計算するに25~52%の割合となる。ゼラチン生成割合の多きは肋軟骨,腕前骨等(52%)にして割合の最も少きは上膊骨及股骨(25%)なり。即ち骨中蛋白含量多きものはゼラチン化成割合も大なり。從つてかゝる骨は蛋白含量の比率以上に多量のゼラチンを生成す。