青森県八甲田山のオオシラビソ林を対象に、約30年前および最近の空中写真を利用してここ数十年間の温暖化が個体群に与えた影響を検出し、今後の分布変化を予測した。オオシラビソの個体群は、ここ約30年間で、分布の下限標高付近で減少し、上限付近では逆に増加しており、分布が高標高域へ移動していることが明らかになった。また、湿原の周辺でも個体数は増加していた。さらに、オオシラビソ個体群の分布と環境条件の関係を50mメッシュと1kmメッシュで解析し、その結果を用いて温度上昇に伴う分布適域の変化を予測した。1kmメッシュでは、温度条件のみで分布が説明されたが、50mメッシュでは、地形条件や湿原との距離などによって、適域の分布が影響を受けていることが分かった。これは、解像度を上げることによって見落としていた微地形などの適応的機能から局所的な適域を検出できたことによると考えられた。温度上昇にともない湿原の分布適域も減少するが、湿原が衰退しない場合にはオオシラビソの分布適域の減少も少ないことが分かった。個体群動態の結果と合わせると、湿原の周囲がオオシラビソのレフュジアとなる可能性が示された。また、空間解像度の違いは、分布適域の推定に影響し、気候変動が森林動態におよぼす影響についての具体的適応策を考えるうえで、高い解像度による解析が必要なことが明確となった。