日本の高山、特に本州中部山岳は、北方の高緯度地域に分布中心を持つ高山植物の南限となっていることが多く、温暖化に対する脆弱性が危惧される。そこで氷期遺存種として知られる高山植物チョウノスケソウ(Dryas ocotopetala)について、高緯度地域から南限の日本までの遺伝的多様性を集団レベルで明らかにし、日本産の高山植物の脆弱性を検討した。その結果、本州中部山岳では遺伝的多様性が顕著に減少していることが示された。特に最南地の南アルプスでは、高緯度地方と比べて遺伝的多様性の約90%が喪失していた。これまでの日本産高山植物に関する分子系統地理学の成果として、本州中部山岳は過去の間氷期から集団が維持された逃避地と推定されているが、分布南限の氷期遺存集団は遺伝的に脆弱であり、温暖化における「抗道のカナリヤ」と言えよう。