2019 年 24 巻 2 号 p. 179-184
本稿は日本国内の主な米の産地である東北,関東,北陸,九州に焦点を当て米生産 の現状を分析した。変動係数を用いて地域別の米生産量のばらつきの度合を推計した 結果,最も生産量の多い東北の変動係数が一番小さく,2 番目に生産量の多い関東の変 動係数一番高いと予測される。このような結果は地域の経済発展や気候と風土に関連 する。経済と工業が発達している県ほど米の生産量が少なく,その位置から離れてい る県ほど農業が発展しやすいという空間的特徴が見られる。たとえば,経済発展が一 番進んでいる関東は水田の耕作放棄地面積が一番大きい。本稿は更に農業のサステナ ビリティの実現を妨げる農業従事者の減少・高齢化問題と,農業従事者と政策策定側 との間に発生する農業政策についての理解と認知の差を考察した。未来カルテを用い て市町村レベルのデータを統合し,地域別の農業従事者と労働者人口を2040 年まで 集計した結果,生産年齢人口の割合は4 つの地域とも減少すると見込まれる。対照的 に,老年人口の割合は増加すると見込まれる。農業人口が大きく減少することから, 農業従事者と政策策定側との間に農業政策についての理解と認識のギャップが存在す ると考えられる。経済要因に加えて,生産意欲と行動を左右する人間の心理的な要素 を追加した新たな行動経済学の視点から人間の意思決定と行動選択のメカニズムを解 明することの重要性と,理解と認知のギャップを縮小する政策の必要性が示唆された。