地理科学
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論文
現代インドの経済空間構造に関する一試論
――地域間格差と工業立地――
友澤 和夫
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2018 年 73 巻 3 号 p. 177-192

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抄録

インド経済の高度成長は,地域間格差の拡大を伴っている。本稿では,まず1人当たり州内純生産に南北格差と東西格差があることを見出す。同値が高い州は同国西部に位置し,その分布はバナナの形を呈するため,これを「インドのバナナ」とする。一方,1人当たり州内純生産が低位な州は,BIMARUと呼ばれてきた同国東北部に位置する。こうしたインドの経済空間的パターンと類似しているのが,デリー首都圏,マハーラーシュトラ州西部,チェンナイ=バンガロールを結んだ範囲に組立工場やサプライヤーが集まる自動車工業の立地パターン=「オート・クレセント」である。さらに,同国を代表する自動車工業集積・デリー首都圏をみると,そこには2つの空間的方向性がある。第1の方向性は,工業集積の外延的拡大=「オート・コリドー」の形成であり,国道48号に沿って面的な拡大が続いている。第2の方向性は,労働力供給地のデリー首都圏からの分離=「請負ワーカー・ベルト」の形成である。当地の労働力供給は,デリー首都圏から遠く離れたビハール州やウッタル・プラデーシュ州東部に負っている。同時に,それは労働力の非正規化・インフォーマル化を伴い,低賃金や雇用の不安定化の問題も孕んでいる。第1の方向性は,デリー首都圏に経済的恩恵をもたらすが,第2の方向性は「請負ワーカー・ベルト」を低賃金労働力供給地の地位に押しとどめる作用を有すると考えられる。自動車工業の産業空間の形成は,労働市場を介して,インド経済の空間構造にも影響を与えている可能性を提起し得る。

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