地域社会の持続的な発展のためには,自然災害に遭いにくい場所に居住することがあるべき方向性の1つと考えられる。本研究では,2018年7月西日本豪雨によって生じた広島県南部の土砂災害の被災建物に焦点を絞り,地理学的な分析から土砂災害が生じた背景と対策の問題を検討した。
災害前後の空中写真から認識できる土砂災害による被災建物は7,500軒あり,災害後に建物が消失した全壊建物は212軒,半壊建物は91軒であった。被災建物のほとんどがDID以外であり,DID以内に分布するものは都市の発展とともに内包されたものである。被災建物の建築年代別では,1969年までに建築されていたものが143軒を占めるが,その後のわずか10年の間に62軒が建築された。高度経済成長期末期以降,DID以外でも山麓の災害リスクの高い場所に住宅建設が進んだものと考えられる。警戒区域との関係では,被災建物は約79%が区域指定のある場所に位置し,そのうち警戒区域外で被災した建物は73軒,警戒区域内では132軒,特別警戒区域で被災した建物はわずか35軒であった。被災建物の大多数が含まれる警戒区域は,土地利用制限などがある特別警戒区域と同等に被災しうる場所であり,その主旨が正しく伝わっているか,多面的な検証が必要である。人口減少社会のなかで長期的には安全な場所へ居住地を誘導することが望ましく,世代を跨ぐ程度の時間スケールで対策を講じていく必要があると考える。