地理科学
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論文
水害碑を活用した防災教育
――歴史学の視角をふまえて――
弘胤 佑
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2020 年 75 巻 3 号 p. 184-194

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抄録

本実践の目的は,水害碑の内容やその変遷に注目することで,①水害碑のもつ社会へもたらす効能・効果や歴史的意義について考察し,さらに,②本実践を通して生徒たちが今後の歴史学習へとつながる問いをもつようになることである。 近年,水害碑への注目度が高まっている。しかし,専ら地域の災害伝承や防災という側面が重視されている。そこで,本実践では,近・現代史の導入として水害碑を位置づけた実践を行った。

授業実践は,2つの授業目標を達成するだけでなく,様々な学びをも生み出した。生徒は,水害碑のもつ重層的な社会的効能・効果についての理解を深めながら,地域の構造物から地形の特徴が読み取れることにも気づき始めた。さらに,多くの生徒から今後の歴史学習に対する意欲の高まりが感じられた。このように,水害碑という個別事象の「内容」のみならず,多様な社会的事象の認識に応用できる「見方・考え方」にまで踏み込んだ学びをみせた。

歴史授業で水害碑を扱うことは,水害碑という教材がもつ魅力を最大限活かしながら,生徒を深い学びへと導くために大変有効な方法である。しかし,水害碑は地理・歴史という社会科の枠組みに収まるものではない。他教科で,あるいは教科横断型で扱える汎用性をもつ教材である。

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